ビジネスモデルの外堀を埋める戦略について

フォーラムに、”ビジネスモデル特許は、単なる発想ではなく、それが文章や図面、ソースコードのように表現されたものでなければならないというものだと理解していますが、まだ表現されていないものを「表現するまでの時間とコストの問題から」とりあえず外堀を埋めるという戦略はありうるのでしょうか?”との書き込みがありました。

せっかくのネタなので、こちらには少し詳しく書かせてもらいます。

外堀を埋めるというのは、基本的に有効です。本丸が取れるものとしても、取れないものとしても有効です。

本丸を取れない場合は外堀を埋めることしかできません。本丸のない外堀だけうめる価値があるのか?という疑問はあるでしょう。しかし、一例として、ある特殊な大型機械が本丸だとして、その大型機械の輸送手段が外堀だとします。

大型機械は実は小型のものを大きくしただけなので、本丸として特許を取れないとします。しかし、一般の輸送手段では輸送コストが高すぎて商売にならないのですが、特別な輸送手段ですと、輸送コストがすごく下がるとします。

色々な業者がその大型機械は使いたいと思いますし、使えるのです。しかし、一般の輸送手段しかなければ実施できません。それに対してこの外堀の特許を取っていたとすると、そのビジネスでは独壇場となれます。

むろん、外堀の埋め方次第とも言えますから、十分に戦略を考える必要があります。それがないままこの戦略をとることで本丸を公知にしてしまい、やりようによっては取れたかもしれない本丸を取る手段を自ら放棄してしまいかねません。

一方、本丸が取れるものである場合、本丸さえ頑丈であれば特許は大丈夫というわけではありません。我々は技術革新を予想しつつ将来にわたって長く有効な特許となるように特許を取るようにしています。しかし、技術革新は予想だにしえないことも数多くあります。

例えば、当所の携帯電話は月70,000円くらいしていました。もう少し高い時期もあったと思いますが、私はそれくらいの頃からしか使っていません。その時期、固定電話が劣勢になる時期が来るなど考えられもしませんでした。しかし、通信回線として非金属が金属に取って代わるのは間近で、固定電話の利用者もかなり減るでしょう。

本丸は特許出願時点から予想されうる技術革新の範囲では有効でしょうが、それを超える範囲となると別発明であり、別権利であると主張されてしまうことがあります。

今はコスト的に難しいが、代替案として非現実的ではないという技術も出願する価値があります。最初は、外堀として出願したつもりが本丸になるかもしれません。

また、特許には存続期間がありますから、いつかは誰でも自由に実施できるようになります。本丸を取った後、外堀を徐々に出願していく場合、外堀の方が後に出願することになります。なので、存続期間は長くなります。

本丸の存続期間が終わったとき、本丸単独については確かに実施できるのだけれども、本丸と密接に関連した外堀の技術を実施せざるを得ない場合があります。先の例でもこのことが言えます。

大型機械を作れるようになっても輸送手段の特許を使えないなら実質的に競争になりえません。だとすると、本丸の特許が切れても、本丸の特許を実施できないのと同じです。つまり、存続期間をのばしたことになります。
2007年03月13日 22:14