焼却灰溶融炉事件

焼却灰溶融炉事件

東京地判 平成7年(ワ)第11586号 平成9年7月25日判決(確定)

 参考文献: 判例集Ⅱ 平成9年(日本知的財産協会)

1.判決要旨
 被告は単に原告製品の焼却灰溶融炉の製造販売が被告の特許権を侵害すると主張するのみで、具体的な侵害の主張立証をしないとして、原告製品の製造販売に対する被告の特許権に基づく差止請求権の不存在確認請求が認容された。

2.事実および争点
2.1 事実
(1)本件特許権の発明の構成
 A.炉体を密閉する炉天井を有する
 B.昇降自在の電極を有する
 C.炉天井に都市ごみ焼却灰等を装入するシュートを有する
 D.未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔を有する
 E.炉体の下部に溶融物の取り出し口を有する
 F.炉内には溶融物の液面上へ装入された都市ゴミ焼却灰等に含まれる未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間を有する
 G.溶融炉

(2)原告製品の争点の構成
 ①Dについて、空気孔はないが、電極の装入孔、焼却灰等の装入孔、還元性の排ガスの取り出し口がある。
 ②Fについて、炉内上部に空間を有している。

2.2 争点
(1)原告製品の電極の装入孔、焼却灰等の装入孔、還元性の排ガスの取り出し口が空気孔の要件を備えているか。
(2)原告製品の炉内上部の空間が未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間の要件を備えているか。

3.結論
(1)空気孔の要件を備えていない。
(2)未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間を備えていない。
(3)以上より、本件発明の技術的範囲に属さない。

4.実務上の指針
(1)判決の引用
 構成要件Dにいう「・・・・空気孔」とは、この構成が独立の必須要件とされている以上、「未燃物の燃焼用空気を供給する」ことを目的とした「空気孔」を意味するものであり、・・・・しかるに、原告製品の炉蓋2は、電極3の装入孔、焼却灰の装入孔を備えているが、これらは構成要件BまたはCにより予定された各装入孔であって未燃物の燃焼用空気を供給することを目的とするものではなく、いずれも構成要件D・・・・にあたらない。また、炉蓋2は還元性の排ガスの取り出し口を備えているが、これは未燃物の燃焼用空気を供給するものではない。したがって、原告製品は、「・・・・空気孔」を有していない。
 構成要件Fにいう「未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る」とは、単純に「空間」大きさを画しているものではない。・・・・(特許公報5欄4行ないし13行)との記載から見て、燃焼性ガスが燃焼させることを目的としていることは明白・・・・原告製品は、炉内上部に空間を有しているが、この空間は、焼却灰を装入するために設けられた空間であって、・・・・炉内では、燃焼が起きないように設計されているのであり、炉内で生じた還元性の排ガスは、還元性の排ガス取り出し管5を経て炉外の燃焼室20に導かれ、ここで燃焼される。よって、原告製品は、「・・・・未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間を有する構成」を備えていない。

(2)執筆者のコメント
 本件発明の構成要件D+F「未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔を有し、炉内には未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間」が、本件特許権が成立するに当たり必須要件であったかどうかが重要だと思います。当時の技術水準がどの程度であったかが問題とはなりますが、これらの構成要件を含まない構成、すなわち構成要件A+B+C+E+Gをメインクレームとして特許権が成立していると、原告の差止請求権の不存在確認請求は認容されない可能性が大きいと思います。なお、メインクレームに対して拒絶がきた場合に備えて、構成要件D+Fを付加したものをサブクレームにしておくとよいでしょう。
                            以上