ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置事件

ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置事件

:実用新案権侵害差止請求等:昭和52年(ワ)第5686号:大地(S58.5.27):大高支持

 原告実案のクレームは、「ゴルフコースにそって立設した多数の支柱上に、ゴルフバッグを連搬する自走車輛を前記ゴルフコースに沿って巡回走行させる軌条を敷設したゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置。」というものです。被告物件はこのクレームの技術範囲内に属することは確かでした。被告はこれが「当然無効」であり、「技術範囲は狭く解釈されるべき」という主張です。

 当然無効の主張の根拠として、被告は「みかん山などの小型貨物搬送用モノレール」の例と「某ゴルフ場での荷物搬送用のモノレール」の例を上げ、さらにはレールの構造に関して「支柱の側方にレールを支持させる考案(実公昭48-3926)」を上げています。

 今回、紹介したかった点は二点あります。被告としての抗弁方法と、この抗弁に対する裁判所の対応です。

 被告が無効と判断すべきとする主張の中で「…本来無限のモノレールの利用範囲をゴルフコースに沿ってのゴルフバッグ運搬の利用に特定しただけ…出願前の公知技術に開示されているか、さもなくば、公知技術から極めて容易に推考できた新規性、進歩性のない…本件考案の技術的範囲は、明細書及び図面に実施例として具体的に明示されたところに限定して解釈されるべきである。」という件があります。

 このような主張の展開は学説、判例において許容されうるものです。しかしながら、実用新案登録の無効という行政処分を裁判においてできないがための論法に過ぎないということを十分に理解しておかなければなりません。特に新規性という意味で無効が当然という場合なら裁判においてこのような論法を採用しうることもありえるでしょうが、進歩性となると極めて専門的と言わざるを得ません。それも実用新案における「きわめて容易に」という登録要件についてはより慎重になるでしょう。

 むろん、この裁判で被告はそれを承知で抗弁しているだけならそれでよいのですが、これを読まれている方には自分の立場にふりかかったときにどう考えるかということの参考にして欲しいのです。判旨の中の「『実用新案登録請求の範囲』に記載された考案の技術思想がその出願前そのまま公知であったいわゆる全部公知のような例外的な場合はともかく…」という言葉の中に被告のような主張が採用されうる限界が表れています。従って、かかる主張は、当然に特許庁において無効審判を請求し、無効処分を得ておいて初めて安心して裁判で主張しうるとともに、かかる技術を実施できると考えるべきでしょう。

 一方、今回は被告の主張は通りませんでした。従って、裁判所においては当然無効を採用できない理由を示します。すなわち、実用新案登録された理由を次のように示しています。

 最も近いと思われる「みかん山などの小型貨物搬送用モノレール」との比較において、「本件考案は、ゴルフコースに植成された芝生を損傷させることなく、しかも人手を省いてゴルフバッグを運搬するという目的…本件考案出願前に存在していた小型貨物搬送用モノレール装置を、ゴルフコースに沿って走行させることにより、ゴルフバッグの搬送に転用した点に新規性・進歩性ありとして特許庁より登録を許された…右小型貨物搬送用モノレールは、本件考案とは達成すべき技術的課題を異にし、そもそも本件考案の、『ゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置』なる構成要件を充たさない…」と説明しています。なにやらそうかなーとも思える説明ですが、要は、当然無効を採用できる状況ではない以上、裁判所としても実用新案登録されるべき理由を考えたということではないでしょうか。よく裁判では「はじめに結果有り」と言われますが、今回の事件に関しては、実用新案として正規に特許庁において登録された以上、進歩性の否定は非常に難しく、進歩性の否定に頼らなければ非侵害とならないのであれば、あくまでも実用新案を有効として扱うことが正論だということです。

 私は、自社の主力製品については特許を取得することを前向きに検討すべきだと常々考えます。