包装材料ヒートシール事件

包装材料ヒートシール事件

大阪地判 平成6年(ワ)第13949号 平成8年9月30日判決(控訴)

 参考文献: 判例集 平成8年(日本知的財産協会)

1,事実及び争点
 <事実>
(1)本件発明の構成

B②:本体(6)の押圧表面に設けられ、作用面と該作用面から突出するほぼ矩形の平らな先端面を有する突条(9)(突条:突出した筋道)

C②:突条(9)のほぼ矩形の平らな平面で前記シール帯域(13,14)の中央部分(13)を押しつける。

C③:熱可塑性材料層(3)は、前記シール帯域(13,14)内で溶融して、溶融した熱可塑性材料が前記導電性材料層(4)の表面より流出されるが前記シール帯域(13,14)の外側の前記熱可塑性材料層(3)の溶融していない部分でせき止められるようになっている。

(2)被告装置の構成

b②:作用面から突出するほぼ円弧状の先端面を有する左右突条(109a)及び高低2段で低い段が左右突条(109a)の突条と同じ高さである該作用面から突出するほぼ円弧状の先端面を有する中央突条(109b)c②:本体(106)の押圧表面で前記対向ジョウ(112)へ前記積層材料同士(110,111)を押しつけるようになっており、前記左右突条(109a)のほぼ円弧状の先端面では前記シール帯域(113,114,115,116)の長さ方向の両端部でかつ外縁(E)寄りの部分を、中央突条(109b)のほぼ円弧状の先端面では前記シール帯域(113,114,115,116)の長さ方向の中央部でかつ外縁(E)にそう部分をそれぞれ押しつけるようになっている。

(3)その他

 被告は被告装置を製造販売している。
 原告は被告に対し差し止め及び損害賠償を求めた。 
 出願の過程-クレームにおける突条(9)の記載について
 1.公開時
  「作用面(8)がほぼ線上の突起」
    ↓拒絶理由:発明の構成が不明確
 2.補正書
  「前記作用面(8)には、突条(9)が設けられ」
    ↓公告,異議申立
 3.補正書
  「前記作用面(8)には、平らな平面を有する突条(9)が

   設けられ」
    ↓フランス公開公報を引用して異議申立理由あり,拒絶査定
 4.補正書(クレームを全面的に補正)
   上記構成用件B②,C②のように補正
    ↓
   同構成用件B②,C②によって、溶融した材料の外方への

   待避が引用公報より積極的に行われ、不純物の持ち去りが

   十分にできると主張して特許査定をうけた

 <争点>
 被告装置の構造b②,構造c②は
   本件発明の構成要件B②,C②を充足するか否か。
 被告装置の構造は、本件発明の構成要件C③を充足するか否か。

2,結論
 被告装置は本件発明の構成要件B②を充足しない。
 従って、その余の点について判断するまでもなく原告の主張には理由がない

3,判決要旨
 出願の経過に照らしクレームの記載を拡張解釈することはできず、文理解釈によって原告の主張は認められない

4,実務上の指針
(1)判決の引用
 本件発明の構成要件B②の突条の形状について、本件発明の出願経過を見ると、、、略、、、と補正したものである。
 本件発明は、本件フランス公報記載の右公知技術の構成とは、「溶融可能の熱可塑性材料層,導電性材料層及び繊維材料層の支持層との積層材料同士をヒートシールするものであり,これら材料をシール帯域内で加熱圧縮し、シール帯域中央部分で強く圧するようにし、熱可塑性材料層を溶融して、溶融材料を側方へ待避させ、同時に不純物粒子を持ち去るようにして融着効果を高める」点において一致しているが、しかし、「シール帯域(13,14)の中央部分を矩形状の面で押圧する点で異なっている」、、略、、溶融した材料の側方への待避が積極的であり、不純物の持ち去りが十分にできることなど、、略、、と主張し、その結果特許査定がなされたものである。
 以上によれば、本件発明の構成要件B②は、、略、、その出願の経過からしても、まさに「ほぼ矩形(ほぼ長方形)の平らな先端面を有する突条」を意味するものであり、、略、、出願の経過に照らし、許容し得ないものであることは明らかである。
 被告装置の構造b②の突条は、、略、、いずれもほぼ円弧状の先端面を有する構造となっているものである、、略、、これらの先端面が文理解釈上「ほぼ矩形(ほぼ長方形)の平らな先端面」に該当しないことは明らかであり、、略、、構成要件B②を充足しないものであると認められる。
 原告らは、被告装置の「ほぼ円弧状の先端面」も「平らな先端面」に含まれるとか、、略、、矩形の両肩部をアール面としたものは「ほぼ矩形」とも「ほぼ円弧状」ともいうことができ、本来の作用効果を奏する限り矩形に類似する形状も本件発明に含まれるとか、、略、、補正に対応して明細書の作用効果の記載はいっさい補正されていないのであって、、略、、原告らの主張は禁反言の原則に反しない旨主張するが、、略、、限定することにより特許として登録を得たのであるから、限定された突条の形状の要件について文言解釈を超えてこれを拡張解釈すべきとする原告らの右主張を採用することはできないものである。

(2)執筆者のコメント
 本件発明は出願の過程で、突条(9)の形状を限定する補正を行って登録されたものである。上記フランス公報でシール帯域中央部分で強く圧するようにすることまで公知にされていることから、本件発明について特許を受けるには「溶融した材料の側方への待避が積極的であり、、」という作用効果を主張する必要があり、そのために突条の形状を限定する必要があったのかもしれない。しかし、詳細な説明で作用的記載をしたとしても、クレーム中の物理的な形状の限定は容易につけ込まれるおそれがあり、また、文言解釈をされた場合にその技術的範囲は非常に狭くなると考えられる。補正をした場合はなおさらである。
 従って、発明の物理的構成を限定するのはなるべくさけるようにしたい。現在はクレームにおいて作用的,機能的記載が可能であるので、特にメインクレームでは装置構成の物理的形状を限定するのは避け、形状限定はサブクレームにすると良いように思われる。補正においても作用的限定をした方がよいと思われる。むろん、侵害者は作用効果が異なることを主張してくると考えられるが、クレームが作用的記載であれば、本件事例でも文言解釈で門前払いということはなく少なくとも作用効果の対比にまで持ち込めるのではないだろうか。
                            以上