ドライアイスの白煙発生装置事件

ドライアイスの白煙発生装置事件

:特許権侵害差止請求:昭和56年(ワ)第11949号:東地(S58.3.28)

 まず、装置の概要を説明します。概略密閉されたドライアイス室には温水室から湯を供給できるようになっており、溶融したドライアイスから発生する白煙を外部に噴出させる管路が設けられています。
 原告の特許請求の範囲は、「…該温水室の温水を所望の時に所望の一定量前記ドライアイス室のドライアイスに与えてドライアイスの白煙を発生するための装置と、…前記ドライアイス室の上部に多数の白煙案内パイプを連通させる…」とあります。一方、被告製品は、温水供給機構の構成と、白煙案内パイプに代えて孔のあいた薄箱をドライアイス室に連通させている点で異なっています。
 原告は、白煙案内パイプを備えていないものをなんと攻めるか。「…いずれもドライアイス室上部と受台周囲部の多数の開口とを連通して…白煙を噴出又は漂わせるよう作用するもので、同一である…」というように、作用同一という主張です。この主張は、自分のクレ-ムに落ち度があったことを認めていることに他なりません。法の理解が足りなかった昔は、実施例の効果から発明を捕らえようとしてし、その結果、因果関係のない構成を組み合わせて一つの発明にしてしまいます。従来品等との比較から最大限のクレ-ムを作り上げるべきという指針を示す参考にして下さい。
 もう一つ、「…被告製品の…変更は、必要がないばかりか、白煙充満部の容積の増大を招くし、内空部の気密性、耐水性にも難が生ずることになって好ましくない…」というように、改悪という主張です。どうみても構成が違う場合にはこの主張に行き着くこともあるのですが、改悪の主張は両刃の剣であることをご注意ください。非常に重要なポイントについてのこの主張は権利範囲を広く解釈されるのに役立ちますが、そうでもないとすると被告製品が技術範囲に属していないことを暴露しているに過ぎなくなります。
 一方、被告の側はというと、「…温水室の温水を所望の時に所望の一定量…ドライアイスに与えて…」という記載について「著しく機能的、抽象的であって、…具体的に記載されていない…本件明細書全体から技術的意味を斟酌した上で解釈すべきである…」と主張しており、実施例の構成と比較して原告特許を侵害しないと主張しています。しかし、ある機能のための機構が開示されていないとしたら、当業者が容易に考え得る機構を適用することも可能です。となると、本当にこの主張が有力であるのか考慮しなければなりません。この場合は…。
 白煙案内パイプの点については、「…被告製品の不可欠の構成要素ではなく…」、「…本件発明では奏することのできない作用効果を有する」、「製造工程が簡単であると同時にコス卜も低廉となる…」、「被告製品においては、…白煙を上昇させるために先細りの構成とすることは全く無用である。」というように、意見書で述べる拒絶理由回避のためのような主張が多く、原告がクレ-ムではっきりとうたっている「多数の白煙案内パイプ」など無いという第一に主張すべき点が薄れているのが気になります。
 裁判の結果です。「仮に、原告主張のようにこれらの作用が同一であったとしても、これらの作用を奏するため、本件発明においては、多数の白煙案内パイプを設けることを特許請求の範囲に明記し、これを欠くことのできない構成要件とした以上、白煙案内パイプを有さない被告製品の白煙案内部が、構成において本件発明と異なるものであることは、多く論ずるまでもなく、明らかであるといわねばならない。」裁判所の判断は正論です。
 なお、全体的に両者の代理人は構成の一部分に独立して権利があるとか、一部分が公知であれば、その部分で権利を取れないというような錯覚もあるようです。