屋根構造事件

屋根構造事件

大阪地判 平成7年(ワ)第12374号 平成9年7月17日判決(確定)

 参考文献: 判例集Ⅲ 平成9年(日本知的財産協会)

1.事実および争点
1.1 事実
(1)本件実用新案権の考案の構成
 A.H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に
   溝形鋼よりなる 雨樋代用枠 を設置して、
   前記桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し、
 B.さらに屋根材の一端を
   前記 雨樋代用枠 の側面上端に設けた支持部に取り付けると共に
 C.この屋根材を前記長溝の上方に配した
 D.ことを特徴とする屋根構造

(2)被告物件(ト号物件)の争点の構成
 (1) H形鋼よりなる桁2,4の下フランジ2′,4’の内側内面の長手方向に
   溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の 雨樋9 を設置して、
 (2) 前記桁2,4の下フランジ2′,4’の内側上方に雨樋9の溝を設置し、
   この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、
 (3) 山型垂木からなる屋根材6の両端部を、
   始端が桁2,4の下フランジ2′,4’の内側内面に取り付けられた
    長手方向に短幅で 幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の
    取付材9’ の遊端に、それぞれ固着し、
 (4) この山型垂木からなる屋根材6を一列前記雨樋9の上方に配した
   ことを特徴とする屋根構造。

1.2 争点
(1)被告物件が「雨樋代用枠」を具備するか否か。
(2)被告物件が「屋根材の一端を(前記雨樋代用枠の)側面上端に設けた支持部に取り付ける」を具備するか否か。

2.結論
(1)「雨樋代用枠」を具備していない。
(2)取付材9’は本件考案の雨樋代用枠に対応する雨樋9の側面上端に設けたものともいえないから、「屋根材の一端を(前記雨樋代用枠の)側面上端に設けた支持部に取り付ける」を具備していない。
(3)以上より、被告物件は、本件考案の構成要件A,Bを具備せず、
   本件考案の技術的範囲に属さない。

3.実務上の指針
(1)判決の引用
 ・・・屋根材を支える部材が必要不可欠であることはいうまでもないが、実用新案登録請求の範囲の記載、その他本件明細書の記載をみても、本件考案においては、屋根材を支えるものとしては右の支持部を設けた雨樋代用枠以外には見あたらないこと・・・に照らせば、・・・雨樋代用枠は、屋根材の他端を支える支持枠と同様、屋根材の一端を支える支持材として機能するものであるということができる。・・・すなわち、雨樋代用枠という一つの部材に屋根材支持枠と雨樋の二つの機能を持たせた点に特徴があるということができる。・・・単なる「雨樋」と同義語であるとする原告の主張は採用できない。

 ・・・被告物件は、フランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、・・・その始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着されているのみで、屋根材6を支持してしるとは認められず、・・・雨樋9が屋根材6を支える構造になっていない・・・

(2)執筆者のコメント
 被告物件の雨樋近傍の断面図をみる限り、取付材9’を雨樋代用枠と考えれば、原告実用新案権の構成と似ているようにも見えます。しかし、被告物件の取付材9’は、桁2,4の下フランジ2′,4’の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広としており、雨樋として機能しないように構成しているものと考えられます。
 本件は、拒絶査定がされた段階で雨樋代用枠という限定をしたものです。それは、当初明細書から専用の雨樋が不要になるという記載がされているように、雨樋の代用をさせる屋根構造を明確にしていく必要があったためだからかもしれません。しかし、当初明細書作成の段階で、「雨樋を設置しつつ雨樋に雨が流れ込むように屋根を桁に接合したり、雨樋の代用にすることが可能な屋根構造」という視点で「雨樋代用枠」とはいわずに「溝形鋼を設置して、前記桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し」というクレームにすると違った展開があったかもしれません。
                              
                            以上

------------------------------

<参考>
原告実用新案権の経緯

 A.H形鋼の内側下端に適宜の形鋼よりなる 支持枠 を設計して
   H形鋼の内側下端に長溝を配し、
 B.さらに屋根材の一端を
   前記 支持枠 に取り付けた
 D.ことを特徴とする屋根構造
 効果:専用の雨樋が不要
    H形鋼の内側に形成され外観には現出しないので、軒先をシンプル
    支持枠の支持面の傾斜角度を変えるだけで各種の屋根に実施可

     ↓ 拒絶理由通知(「H形鋼」「支持枠」は何のことか不明)
     ↓ 補正

 A.I形鋼よりなる梁の下端内面の長手方向に
   溝形鋼よりなる 支持枠 を設計して、
   前記梁の下端内面に長溝を形成し、
 B.さらに屋根材の一端を
   前記 支持枠 の支持体に取り付けた
 D.ことを特徴とする屋根構造

     ↓ 拒絶査定(「I形鋼」「支持枠」は何のことか不明)
     ↓ 拒絶査定不服審判 & 補正

 A.H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に
   溝形鋼よりなる 雨樋代用枠 を設置して、
   前記桁の下フランジ内面に長溝を形成し、
 B.さらに屋根材の一端を
   前記 雨樋代用枠 の支持体に取り付けた
 D.ことを特徴とする屋根構造

     ↓ 拒絶理由通知(「雨樋代用枠の支持体」は何のことか不明)
     ↓ 補正

 A.H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に
   溝形鋼よりなる 雨樋代用枠 を設置して、
   前記桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し、
 B.さらに屋根材の一端を
   前記 雨樋代用枠 の側面上端に設けた支持部に取り付けると共に
 C.この屋根材を前記長溝の上方に配した
 D.ことを特徴とする屋根構造