魚釣用スピニングリール事件

魚釣用スピニングリール事件

東京地判 昭和59年(ワ)第7241号 平成元年8月30日判決(控訴)

 参考文献: 判例集 平成元年(日本知的財産協会)

1、判決要旨
 被告の魚釣用スピニングリールのブレーキレバー装置は、本件考案のドラグ調整装置には含まれない。従って、この前提を欠いた原告の主張は理由がなく、本差止請求は棄却された。

2、事実及び争点
 <事実>
 (1)本件考案の構成要件
 A:ローターの後部に形成された凹陥部にローターの逆転時のみ係合して回動   する円盤を設けたこと。
 B:その円盤に制動部材を筺体に支承された操作桿で圧接自在に形成した魚釣   用スピニングリールのドラグ調整装置。
 (2)本件考案の効果
 釣糸の限界強度に合わせて事前に制動力の強さを調整しておくことができる。(被告製品のブレーキレバー装置は、事前に制動力の強さを調整することはできず、魚釣の状況に応じて釣人が任意のタイミング及び強さでブレーキレバーを引き上げ、ローターの回転に制動を掛ける)
 (3)出版されている書籍の記載
 スピニングリールには、ドラグ式とレバーブレーキ式とがある。
 (4)原告が行った別の出願における記載
 ローターにローターの逆転時任意の設定圧で制動を掛けるドラグ調整装置と、この制動装置の制動力に付加的にローターの回転時に瞬時に指動操作で制動を掛けるサミングレバーによる制動装置とを夫々別個に設け、・・・。
 (5)原告製品のカタログにおける記載
 レバーブレーキ装着、従来のドラグ装置も装備、・・・操作性に定評のあるリヤドラグを採用。瞬時のドラグ調整が可能です。そのうえ、レバーブレーキを併用すると、獲物とのやり取りがさらに自由に、思いのまま、・・・。
 <争点>
 被告製品が採用するブレーキレバー装置の構成が本件考案にいうドラグ調整装置の構成要件を充足するか否か。

3、結論
 充足しているとは言えない。

4、実務上の指針
(1)判決の引用
 魚釣の状況に応じて任意にブレーキレバーを操作して制動片を制動盤等に接触させて、釣糸の繰出しを制動する構造のものは、単に「制動装置」,「制御装置」又は「ブレーキレバー」,・・・等といい、これをドラグ調整装置又はドラグ装置等と呼ぶことはないこと・・・が認められる。・・・レバーブレーキ装置とドラグ調整装置又はドラグ装置との用語を自らも区別して用いていることが認められる。・・・被告製品のブレーキレバー装置は、・・・その作用効果の面においても、ドラグ調整装置とは異なるものといわなければならない。
(2)執筆者のコメント
 本件考案について出願を行う時点で既に、ドラグ調整装置を採用するスピニングリールと、ブレーキレバー装置を採用するスピニングリールとの存在が広く知られている。
 本件の場合、ドラグ調整装置に限定することについて検討がなされたのかどうか分からないが、ドラグ調整装置およびブレーキレバー装置というスピニングリールに特有な類似技術が存在していたのだから、技術範囲の特定には慎重さが必要だったと思われる。
 また、本件のようなスピニングリールに限らず、類似する技術が特定の分野で複数存在する場合には、特に慎重に技術範囲を特定しなければならないことをあらためて思い知らされた。
                                    以上