管被覆材保護筒事件

管被覆材保護筒事件

東京地判 平成6年(ワ)第12424号 平成9年1月31日判決(控訴)

1、判決要旨
 被告製品は、原告の本件考案における請求の範囲に記載された「アール部」の構成と「僅かに下向傾斜線状に切除して」形成されるガイドラインの構成とを具備しないとして、原告の本訴請求が棄却された。
2、事実及び争点
 <事実>
(1)本件考案
要件A:「縁部3aの上端のアール部9a」と「縁部3bの上端にアール部10a」
要件B:「縁部3aの上端部の、表面側を設定長l1の長さで下向きに傾斜線状に切除して、上端のアール部9aから折り返し部4cに向かってガイドライン9bを形成する」と「縁部3aの上端部を、設定長l2の幅及び設定長l3の長さで僅かに下向き傾斜線状に切除して、上端のアール10aからガイドライン10bを形成する」
(2)被告製品
構成1:「角状の第一コーナ部109A」と「角状の第二コーナ部110A」
構成2:「第一案内部109C(水平方向に対して74度の傾斜)」と「第二案内部110C(水平方向に対して72度の傾斜)」
 <争点>
  ・構成1が要件Aに該当するか否か。・構成2が要件Bに該当するか否か。3、結論
  ・構成1は要件Aに該当しない。・構成2は要件Bに該当しない。
4、実務上の指針
(1)判決の引用
 ・・・アール9a及びアール部10aの構成によって、上下の保護筒の最初の嵌合を引っかかりのない円滑なものとし、「保護筒の上下端部相互の嵌合接続をスムーズに効率的に」行うことができるという効果を奏することをも主眼としたものであると認められるのであって、「アール部9a」及び「アール部10a」は、本件考案の本質的特徴の一つであると解される。・・・本件公報中の明細書の記載を検討しても、ガイドライン9bとガイドライン10bのそれぞれの傾斜角度の程度や相互の関係についての技術的意義に言及した箇所は見当たらず、ガイドライン10bの傾斜について「僅かに」と限定を付した技術的意義については明確でない。もっとも、本件公報中の本件考案の実施例の図面である第1図には、ガイドライン9bの延長と保護筒3の上縁線との角度は約115度、ガイドライン10bの延長と保護筒3の上縁線との角度は約95度で図示されていることからすれば、「僅かに下向きに傾斜線状」の意味は、切除後の保護筒3の上縁線とガイドライン10bの延長が形成する鈍角が90度に近いことを意味するものであることが示唆されていると解することができる。・・・
(2)執筆者のコメント
 本件考案のポイントは、接続作業を容易にするためにガイドライン9b,10bを設け、保護筒を接続したとき、互いが周方向に回転するのを防止するために折り返し部4dを位置決めする係合部10を設けた点にあると思われる。
 従って、アール9aとアール部10aとは、ガイドライン9b,10bを補足する構成にすぎず、逆止突子6を位置決めするガイドライン10bは、係合部10を補足する構成にすぎない。
 このため、アール9aおよびアール部10aを示す構成と、ガイドライン10bの傾斜角度を示す構成とは、本来、メインクレームに含めるべき記述ではなかったと思われる。
 また、図面がクレームに記載された構成を限定するものであるならば、簡単にでもクレームの構成は図面の構成に限定されないことを言っておくべきであったと思う。