研削ホイール事件

研削ホイール事件

平成4年(ワ)第8721号 平成8年12月25日判決(確定)

1,事実及び争点
 <事実>
(1)本件発明の構成
 支持部材の環状自由端縁から径方向外方に傾斜して突出する略円錐筒状の研削部を有する砥石を具備する。
 砥石の研削部の厚さは0.1ないし0.5ミリメートルである。(構成要件E)
(2)被告製品の構成
 フランジ部に対して、その下面から外周側に傾斜して突出するパイプ状の各砥石が略円錐筒状に多数周方向に設けられ、傾斜して突出した部分は、砥石露出部3となっている。
 砥石2の砥石露出部3の肉厚は約0.3ミリメートルである。

 <争点>
 被告製品の「砥石露出部3」が本件発明の構成要件Eに含まれるか否か。

2,結論
 被告製品は本件発明の構成要件Eを充足しない。
 原告の請求を棄却する。

3,判決要旨
 本件発明でいう「研削部の厚さ」とは、被告製品においては多数のパイプ状砥石2の砥石露出部3を全体として略円錐筒の形状とみる以上、その砥石露出部3の外形を「研削部の厚さ」と認めるべきである。従って、その研削面は相当大きいものであると認められ、被告製品は、構成要件Eを充足せずその他の構成要件について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に賊しないことは明らかであるから、原告の差止請求請求および損害賠償請求は棄却された。

4,実務上の指針
(1)判決の引用
 本件発明は、、、略、、、砥石の研削部を支持部材の環状自由端縁から径方向外方に傾斜して突出せしめることに加えて、、、略、、、「該砥石の該研削部の厚さを0.1ないし0.5ミリメートルにする」(構成要件E)物であり、「該研削部」とは、その前の構成要件Bの「略円錐筒状の研削部」を受けたものであると解することができるから、この「該砥石の該研削部の厚さ」とは、「略円錐筒状の研削部の厚さ」を意味するものであり、略円錐筒の形状をなす研削部の「厚さ」をその構成要件としたものであるということができる。
 、、、略、、、
 被告製品の砥石の検索部の構造についてみると、、、略、、、各砥石露出部3は、パイプ状砥石2において、加工物を研削する部分となると認められる。
 、、、略、、、砥石露出部3を、全体としてみると、、、略、、、砥石露出部3の外形を厚みとする「略円錐筒」の形状をなしているものと認めることが可能である。したがって、本件発明の構成要件で在る略円錐筒の形状をなす「研削部の厚さ」とは、被告製品においては、多数のパイプ状砥石2の砥石露出部3を全体として略円錐筒の形状とみる以上、その砥石露出部3の外形を「研削部の厚さ」の認めるべきである。
 、、、略、、、本件明細書の第8図に実線で示す状態から2点鎖線で示す状態に形状変化しても、砥石と加工物との接触面間は小さい範囲に維持され、したがって、十分な研削効率及び研削精度が維持されるという効果を奏する。
 、、、略、、、したがって、構成要件Eの「該砥石の該研削部の厚さ」にいての数値の特定は、右のように砥石の研削部が形状変化しても、砥石の研削部の加工物との接触面積を小さい範囲に維持するために略円錐筒の形状をなす研削部の厚さの数値を限定した要件であると認められる。
 そこで、被告製品の砥石の研削部の構造について検討する。、、、略、、、砥石露出部3の下面の全面が加工物を研削する研削面(加工物との接触面)となり、これらの砥石露出部3の全周が研削部となるのであって、その研削部の外形は約2.6ミリメートルであり、、、略、、、その研削面は相当大きいものであると認められる。
 、、、略、、、よって、被告製品は、構成要件Eを充足せずその他の構成要件について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属しないことは明らかであるから、原告の請求はいずれも理由がない。
(2)執筆者のコメント
 本件発明における特許請求の範囲には、「略円錘筒状の研削部を有する砥石」という構成要件が記載してあり、さらに「砥石の研削部の厚さは0.1ないし 0.5ミリメートルである」と記載してある。
 研削部というのは抽象的な表現にして権利を広くしようとしたものと考えられるが、詳細な説明の中では明確な定義がされていない。従って、特許請求の範囲の記載からその意味が解釈されることになり、「研削部」は加工物と砥石とが接触する部分であると解釈された。
 この場合、「研削部の厚さは0.1ないし、、、」と書いてあるので、上記加工物と砥石との接触部分がその厚さであるとの解釈がなされても仕方がない。
 そこで、「研削部は0.1ないし0.5ミリメートルの厚さの砥石からなっている。」としておいて、さらに詳細な説明でその形状は環状でも波状でも(円筒状でも良い)とすればより広い権利がとれたのではないでしょうか。