開き戸装置事件

開き戸装置事件

 事件名:開き戸装置事件
【事件番号】 大阪地方裁判所第21民事部 平成5年(ワ)第8288号,平成6年10月27日判決(確定)
【参考文献】 不正競争防止法第2条第1項第11号、4条、実用新案法第26条、特許法第70条


1.判決要旨
 被告が、原告らがその部品(イ号物件)を提供する家具に使用する開き戸装置(イ号製品。なお、イ号物件はイ号製品のみ使用するものである。)が、被告の実用新案権を侵害する旨原告の取引先等に警告したことについて、イ号製品は、本件考案の技術的範囲に属さないとして、右警告行為の停止請求、損害賠償請求を認容した。


2.事実および争点
 2.1 事実
 (1)本件考案の構成
  a.箱体へ観音開き状に取り付けた開き戸と
  b.一方の開き戸へ付設した固定翼と目隠し可動翼からなる蝶番と
  c.蝶番に設けて該蝶番の屈曲状態を保持するスプリングと
  d.開き戸近傍に設けた突部材とより構成し
  e.前記蝶番の固定翼は一方の開き戸に於ける自由端内面に固定し
  f.目隠し可動翼の先端側は閉戸時、他方開き戸の自由端内面に重なり
  g.且つ半開戸状態でスプリングの付勢により他方開き戸の自由端と突部材との間に位置する
  h.家具に使用する開き戸装置

 2.2 争点
 イ号製品は本件考案の技術的範囲に属するか。
 (1)イ号製品が本件考案の構成要件b及びfを具備するか。
 (2)イ号製品が本件考案の構成要件dを具備するか。
 (3)イ号製品が本件考案の構成要件gを具備するか。
 (4)原告ら主張の先行公技術を斟酌すると、本件考案は出願前全部公知であり、その技術的範囲は、明細書及び図面に記載された実施例に限定されるか。

3.結論
 イ号製品は、本件考案の構成要件dを具備しないといわざるを得ない。イ号製品は、本件考案の構成要件gを具備しないものといわざるを得ない。以上のとおりであるから、その余の点については判断するまでもなく、イ号製品は本件考案の技術的範囲に属さず、イ号物件の製造、販売は本件実用新案権を侵害する行為ではない。従って、被告の本件警告行為は、虚偽事実の陳述流布行為にあたるというべきである。そして、それが、原告らの営業上の信用を害するものであることもその行為の内容自体から明らかである。

4.実務上の指針
(1)判決の引用
 本件考案の構成要件dにいう突部材は、一方開き戸を閉じる場合に、目隠し可動翼の先端側の背面に接し、これを押して回動させる力の作用点を一つ含み、目隠し可動翼の最先端が右の力の作用点よりもさらに内側に入ることを可能とする程度の幅を有する部材であるのに対し、イ号製品・・・背面が接するものでなく、・・・最先端がオートマグネット17,18のカム22の案内面21より内側に入ることは不可能である。よって、イ号製品は、本件考案の構成要件dを具備しないものといわざるを得ない。・・・本件考案の構成要件gは、・・・目隠し可動翼の自由端の先端側の背面が突部材に接し、かつ、右目隠し可動翼の最先端は、・・・内側に位置していることを意味し、・・・イ号製品では、背面が・・・接することはなく、・・・案内面21より内側に位置することもない。・・・イ号製品は、本件考案の構成要件gを具備しないものといわざるを得ない。

(2)執筆者のコメント
 本事件は、出願経過における被告の主張を考慮してクレームに記載された文言以上の解釈に基づいて判決がなされている。かかる経緯を考慮して、判決ではイ号製品が本件考案の技術的範囲に属さないと判断していると思われる。
 しかし、本件考案は、実施形態そのものの形状を構成としている。恐らく、発明者が持参した図面を忠実にクレームの構成を展開したものであると考えられる。従って、上記経緯を考慮しなくても、本判決のように、実施形態に限定した判断がなされる可能性は大きいと考える。クレームの構成を検討するに際しては、考案が実現しようとしている技術的思想を理解し、複数の変形例を勘案することが可能な上位概念を構成とする必要があると考える。そして、複数の変形例を従属させるか、実施例として記載する必要があると考える。
                                                以上