おにぎり包装用フィルム事件

おにぎり包装用フィルム事件

東京地判 平成5年(ワ)第2389号 平成5年12月22日判決(控訴)

 参考文献: 判例集 平成6年(日本知的財産協会)

1、判決要旨
 被告製品が本件考案の構成要件D,Eを充足しているとは言えない。この前提を欠いた原告の主張は、理由がないことになる。従って、本差止請求は棄却された。


2、事実及び争点
 <事実>
 (1)本件考案の構成要件
A:矩形状の外装フィルムとその内面のほぼ中央において重合するよう配置され  た一対の隔離フィルムの外縁をシールすることにより袋部を形成し、
B:当該袋部を海苔の収納部とし、
C:隔離フィルム上におにぎりを載せ、外装フィルムを内側へ略半分に折り畳む  と共に、その両隅部を更に折り畳みシール片等により固定する包装用フィル  ムにおいて、
D:外装フィルムの略中央で隔離フィルムの重合端縁に沿った位置にミシン目を  設け、
E:外装フィルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封し、隔離フィルムの片方と  ともに、ミシン目部分で外装フィルムの略半分を切り離し可能とした
F:おにぎり包装用フィルム
 (2)被告製品の構成
 外装フィルムの略中央で隔離フィルムの重合端縁に沿った位置にカットテープが設けられている
 (3)原告は本件考案について専用実施権の設定登録を受けた者であり、本件考案にかかる実用新案登録出願の出願人ではない。
 <争点>
 被告製品が構成要件D,Eを構成しているか否か。


3、結論
 被告製品が構成要件D,Eを充足しているとは言えない。


4、実務上の指針
(1)判決の引用
 本件明細書の本件登録請求の範囲における「ミシン目」を、原告の前記主張のように、適宜の切離し手段を施してなる切離し手段を意味し、カットテープ方式を含むものであると解することは到底できないというべきである。・・・(中略)・・・被告製品においては、被告製品により包装されたおにぎりの一般的な購買者が、表面に記載された説明書に反し、敢えて困難なシール片剥離作業を経て外装フィルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封するということは通常考えられない用法であるといわなければならない。そうすると、被告製品は、シール片を剥離して外装フィルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封することは必要ないのみならず、このような開封を予定しない形状ないし構造の包装用フィルムであるというべきである。

(2)執筆者のコメント
 原告は、被告の主張に対して反論する際、複数の切離し手段が包装用フィルム業界において古くから(本件考案出願よりもずっと前から)知られていた旨を主張している。しかも、中心的な切離し手段として、本件考案で利用するミシン目方式と被告製品で利用するカットテープ方式が知られていたと主張する。しかし、本件考案にかかる実用新案登録出願の出願人が出願時に包装用フィルム業界の技術常識を知り得る状況にあったかどうかは定かでない。
 上記出願人が包装用フィルム業界におけるいわゆる当業者であったのならば、明細書を作成する際、出願人に対して包装用フィルム業界の常識的技術について説明を求めることで違った形の請求範囲になったのかも知れない。また、考案者があえてミシン目方式への限定にこだわったのならば、本件考案にかかる登録出願にはカットテープ方式に該当する技術内容が含まれていないことを説明しても良かったのかも知れない。
 一方、上記出願人が包装用フィルム業界におけるいわゆる当業者でなかったのならば、原告は、専用実施権の設定登録を受ける際、出願人が当業者でないことを考慮して本件考案の権利範囲を検討すれば、権利範囲を広く解釈しすぎることもなかったかもしれない。
                            以上