ドアの開閉装置事件

ドアの開閉装置事件

【事件番号】 大阪地方裁判所第21民事部
         平成7年(ワ)第2300号,平成9年10月30日判決(確定)
【参考文献】 判例集Ⅳ 平成9年(日本知的財産協会)


1.判決要旨
 被告が製造したドア開閉装置の構成は、原告が有している実用新案権の考案にかかるドア開閉装置を構成しないとして、原告の主張の実用新案権の侵害を理由とする損害賠償請求を棄却した。

2.事実および争点
2.1 事実
(1)本件考案の構成
A.公衆施設1内の部屋2の出入り口にドア3を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア3を付勢手段4で閉止側へ付勢し、ドア3を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具5で引き開き可能な構成
B.ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合する構成

(2)被告製品の構成
a.公衆浴場内のサウナ部屋の出入り口にドア103を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア103を付勢手段104で閉止側へ付勢し、ドア103を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具105で引き開き可能な構成
b1.内側に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口し、
b2.前記穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し、
b3.引手具105を前記挿通穴122,穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間に入れ、
b4.引手具105の掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に着脱自在に係合する構成

2.2 争点
 本件考案の構成要件Bと、被告製品の構成要件b1~b4とが実質的に同一であるか否か。

3.結論
 被告製品は、本件考案の構成要件Bにいう「被掛止具8」の構成は備えていると解する余地があるとしても、「被掛止具8に形成された被掛止用凹部9」の構成を備えておらず、従って、構成要件Bを充足しないから、本件考案の技術的範囲に属しない。

4.実務上の指針
(1)判決の引用
 ・・・本考案は、前述のとおり、公衆浴場内のサウナ室等の出入口のドアを内側から自在に開けられるようにしながら、外側からは無賃入室できないようにすることを技術課題とし、右技術課題を解決するための手段として前記構成要件A,Bからなる構成を採用したものであって、その課題解決の原理は、「ドア2の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成」するというもの、すなわちドア枠自体とは別部材である被掛止具8にその一部として被掛止凹部9を形成するものであるのに対し、イ号製品における右課題解決原理は、ドア枠材自体の空洞部を被掛止用に利用するものであるから、イ号製品は、本考案とは課題解決の原理を異にするのであって、原告主張のように基本的思想が同一であるということはできない。

(2)執筆者のコメント
 本件考案の技術的な思想は、「公衆浴場内のサウナ室等の出入口のドアを内側から自在に開けられるようにしながら、外側からは無賃入室できないようにする」機能を実現するドア開閉装置を提供することであって、実用新案登録請求の範囲に記載された態様はその装置の一実施例にすぎない。
 従って、クレーム作成時、特に、メインクレームの作成時は構造が限定されるような記載を避けた方がよいと考える。
 すなわち、上述した機能を実現可能な構造を示唆するメインクレームを作成し、サブクレーム、考案の詳細な説明および願書添付図面にこの技術的思想を実現可能な実施態様、具体的態様を複数記載すれば良かったのではないだろうか。
 また、このように機能的な面に注意を払えば、必要十分な構成を抽出することができるとともに、実現する具体的な手法として被告製品の態様も変形例として想起されたものと考える。                                           以上