ロッドミル事件

ロッドミル事件

東京地判 平成3年(ワ)第 609号 平成6年2月16日判決(控訴)

 参考文献:判例集 平成7年 p1766-1781 日本知的財産協会

1,事実及び争点
 <事実>
(1)本件考案の構成
 転軸体の二基を水平で平行上に対設し、(構成要件B) 一対の差動装置間を前記転軸と直交状に配設した中間軸で回動自在に連結し、(構成要件C) さらに、一つの駆動源と前記差動装置の一つとを前記中間軸と同一中心状に配設した駆動軸で回動自在に連結し、(構成要件D) 前記駆動輪と転接して回転可能とすべく中心を水平としたシェル本体の外周に囲繞して配設の一対の外輪対を乗載してなり、(構成要件E)
(2)被告製品の構成
 ライナーを水平に設置されたコンクリート製の基礎と被告製品との間に噛ませて排出口側が供給口側よりも高くなるように設計されている。
 駆動軸E,中間軸Mは一本の軸である。駆動源からこの軸に伝達された回転はプーリを介して差動装置Gに伝達される
(3)その他
 被告Aは被告製品を製造販売し、被告Bはこれを販売している。
 原告は出願の過程で二基の転軸体及びシェル本体の中心を水平にするという要件を付加した。
 原告は被告に対し実用新案権に基づき、その差し止め及び損害賠償を求めた。
 <争点>
 被告製品は本件考案の構成要件B~Eを充足するか否か。

2,結論
 被告製品は本件考案の構成要件B~Eを充足しない。
 原告の請求を棄却する。

3,判決要旨
 本件考案は構成要件B,Eによってシェル本体の中心及び転軸体を水平にしたことにより、
「シェル本体及び転軸体が安定したものになること」
「シェル本体の重心の変動に的確に対応して駆動輪の回転を作動させること」
の2つの作用効果を得るようにした点に意味がある。従って、水平の意義は文字通りに解するのが相当であり、被告製品は構成要件B,Eを充足しない。
 被告製品の中間軸Mと駆動軸Eとは一本の軸であり、本件考案でいう中間軸は存在しないというべきである。従って、被告製品は構成要件C,Dを充足しない。

4,執筆者のコメント
 本件考案は出願の過程で、構成要件B,構成要件Eにいう「水平」の要件を付加したからこそ登録されたものです。また、この「水平」という要件によって上述の作用効果がある旨を明細書に記載しています。従って、「作用効果に関する基準」および「出願の経過参酌の原則」によって「水平」が「特許発明の技術的範囲」の判断において厳格に判断されたように思われます。
 しかし、「水平」という記載をしたときに、「水平」がどこまで厳密に解釈されるかは事案によって様々であると考えられます。そこで、私としましては「略水平」と記載したり「上記作用効果を奏する範囲内であればよく、厳密に水平である必要はない」と記載する等して「水平」の要件が厳密に取られないように気を付けたいと思います。
 構成要件C,Dについては、上記のように特別の事情はありません。従って、現在であればメインクレームで部材間の位置関係を記載するのはさけることになると思います。そこで、メインクレームで広く抽象的な記載として、「シェル外輪体が当接する駆動輪を両端に備えた駆動軸と、同一駆動源の駆動力を差動装置を介して上記駆動軸に与える駆動力伝達機構と、、、」等と記載しておいて、サブクレームで「駆動力伝達機構は、、、」として個々の軸の関係を記載したり差動装置と軸との位置関係を記載することになると思います。メカ的なものをクレームする際には、メインクレームに対して拒絶がきた場合に備えてなるべく多くの態様を想定してクレームあるいは実施形態に書くようにすればよいと思います。                         以上

*なお、本研究会はあくまでも明細書の改善のために判例を題材にしており、判決を肯定しているものではありません。従いまして、原告、被告それぞれの見解を否定する意見はありません。