受座事件
受座事件
大阪地判 平成4年(ワ)第9232号 平成6年3月15日判決(控訴)
1.判決要旨
本件考案の技術的構成は、出願前に市販されていた被告旧製品と同一であることから、明らかに無効原因を有する。
仮に、本件実用新案権が有効であるとしても、本件考案の実施例および図面に示された受座と被告製品とは構成が異なる。
従って、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属すると認められず、被告製品の製造販売行為が本件実用新案権を侵害するとは言えない。
2.事実及び争点
<事実>
(1)本件考案・被告旧製品
A:ガイド壁における側壁の形状が台形状である。
B:スライドガイド舌片の形状が薄板形状である。
C:スライドガイド舌片の位置が上方に偏位している。
(2)被告製品
A’:ガイド壁における側壁の形状が略二等辺三角形状である。
B’:スライドガイド舌片の形状がL型に屈曲している。
C’:スライドガイド舌片の位置がガイド壁の中心にある。
<争点>
・本件考案は出願前に公知であったか。
・被告製品は本件考案の技術的範囲に属するか。
3.結論
・本件考案は出願前に公知であった。
・被告製品は本件考案の技術的範囲に属しない。
4.実務上の指針
(1)判決の引用
本件実用新案権は明らかな無効原因(実用新案法3条1項1号・2号)を有することになる。本件訴訟においては、このような無効原因を有する本件実用新案権でも一応有効に存在するものとして扱わなければならないが、本件実用新案権の保護と競業者たる被告らの利益との調和を図るためには、その技術的範囲は、願書添付明細書及び図面に示された実施例と一致するものに限られると解するのが相当である。・・・そこで、願書添付明細書及び図面に示された実施例と被告製品を対比すると、・・・異なることは明らかである。
(2)執筆者のコメント
当該事件の争点とは直接関係ないが、判決文では、本件考案の出願時における事実関係を認定する際、実施例および図面に示された技術内容が非現実的なものであることから、出願人が被告の知らない間に出願手続きをしたものと推認している。
また、当該判決では、上述したように、本件考案の技術的範囲を実施例と一致するものに限定し、被告製品と比較している。
これらの事実から、実施例や図面を作成する際には、該当する技術分野における常識や実際に市販されている製品の構造などを良く理解するのが大切なことだと分かる。