ダンプカードラム回転式泥落とし装置事件

ダンプカードラム回転式泥落とし装置事件

:特許権侵害差止請求他:昭和56年(ワ)第13922号(東京地判S58.3.28)

 まず、装置の概要を説明します。自動車工場などで床面にローラーを配置し、その上に車を乗り入れるとタイヤが回転するのにつれてローラーも回転するようにする装置があるのをご存じでしょうか。本件泥落とし装置も、ダンプを停止させた状態でタイヤだけが円筒体(ドラム)の上で空転できるようにしておき、このドラムの周面に形成した凹凸で泥を落とします。
 原告の特許請求の範囲は、「螺旋状の突条を数本周面に配設した円筒体を平行に配列して回転自在に支持すると共に、これら円筒体の回転軸にブレーキ装置を設けたことを特徴とする・・」となっており、その作用・効果は「円筒体の周面に設けられた螺旋状の突条によって車輪に附着している泥土を極めて容易に剥離することができ、円筒体の回転軸にブレーキを設けてあるので、装置に対する自動車の車輪の進入、脱出を安全、容易に行うことができる。」とのことです。
 被告装置は、螺旋状の代わりにくの字形の突条(ローラの中程から両端に向かって互いに反対方向の傾斜で延びている)を備え、ブレーキの代わりに逆転防止クラッチを備えています。 構成の違いは「螺旋とくの字」、「ブレーキ」と「クラッチ」という二点です。結論は、非侵害。螺旋状の突条によって泥土が側方へと送り出されるという効果が問題になりました。
 判旨の中には「・・剥離した泥土を機枠の側方へと送り装置外に排出する、という・・効果があるものとして明細書においてこれを強調し、右効果を奏するものとして螺旋状の突条を配設する、という構成を採用して特許を受けた以上、明細書の右記載を無視して、右の効果を有しないことを前提に作用効果の同一を論ずることは許されない・・」と言っておられます。
 判例の失敗例を見ていると、効果を書きすぎることが多いのが目に付きます。「効果というのはあまり書かない方がいいのか」と早合点しないで下さい。構成に見合わない効果です。裁判官は発明の思想というものを探し出すことができません。一方、一番理解しやすいのは効果です。ところで、構成が一致していれば争うことならず、微妙にずれているから争うことになるのです。このとき、構成の共通点探し、すなわち思想探しができないのですから、効果が一致しているか否かで判断せざるをえないのです。ですから、効果は慎重になるべきです。
 慎重になる具体的方法はいくつかあるのでしょうが、私は作用を物理的結果と考え、効果を体感的結果と考えて分けるように指導しています。似ているようでも一体で済ませることなく、はっきり分けます。物理的結果を考えるときに、物理作用の原理と効果とが一致するか否かに気づくことが多いのです。螺旋の意義と効果とが一致するか。螺旋とは泥をはぎ取る意なのか、運び出す意なのかといったことを考えます。作用を物理的にとらえることにより、複数の物理的作用が組み合わさっているときにでも効果が混合してしまわないように整理できます。 化学面においても同様です。効果に起因する物理的原因があるならば、その原理は何か。純粋に化学的効果しかないとしても、物理的な側面から見てみると適用対象はもっと広いことがあるようです。作用と効果を物理的結果と体感的結果とに分けて整理していると、そんなことが見えてきます。