紫外線殺菌機事件

紫外線殺菌機事件

:実用新案権権利範囲確認審判却下審決取消請求:昭和46年(行ケ)第144号(東京高裁:S50.7.16)

 この判決における事実と争点を簡単に紹介します。適用対象は、内部に棚を設けた箱体内に紫外線ランプを設置し、同紫外線ランプを点灯させて殺菌するというものです。ここで、請求の範囲には、紫外線殺菌機の構成について、「・・棚の各前端と箱体内の裏面との間に適当の間隔を設けて、その部分の中央に殺菌ランプを縦設し、・・」と記載されていましたが、詳細な説明には、殺菌ランプを箱体の裏面に設置したことの意義については触れていませんでした。
 一方、イ号の紫外線殺菌機は、箱体の前面側中央に柱状の支枠を形成し、その内側に紫外線ランプを縦設していました。また、被告側は、イ号物件は前面に設置されたランプの光線が白色塗装された奥面と前面との間を往復反射し、器物の両側を照射する、という特有の作用効果がある旨を主張しました。
 なお、この裁判の請求の元となったのは特許庁でなされた権利範囲確認審判です。
 結論は、審決取消。すなわち、イ号物件は本件実用新案件の権利範囲内にあるとのことでした。
 前置きが長くなりましたが、この判決自体は請求の範囲の記載の未熟さを裁判所で助けられたといって良いでしょう。本来、請求の範囲の記載はああ書くべきではなかったのです。請求の範囲の記載の仕方によって幸か不幸か分かれる場合、二つの理由があります。一つは方向性を誤った場合であり、これは回避することは難しいでしょう。これについては別の機会にゆずります。もう一つは不要な限定があった場合です。文言が不要な限定が否かを判断するのは難しいところですが、きわめて有用なチェック方法があります。作用の欄で必要とならない語句が請求の範囲にあるか否かをみるのです。この発明(考案)の作用を説明する上で必要な語句なら不要な限定にはならないでしょうが、作用を語る上で必要でない語句なら請求の欄にも不要です。この事件の場合、殺菌機における今回の考案部分(殺菌機の説明でないことに注意して下さい)の作用の説明に「裏面」ということばが必要であったか否かです。この殺菌機としての説明をしてしまったら「裏面」という言葉を使ってしまうかもしれませんが、今回の考案と意識した場合には「裏面」という言葉は不要でしょう。
 結果的には権利者にとって助かった判決としてみてしまえばそれまでですが、本来ならば裁判という煩わしい手続きを踏まなくても良かったともいえるのではないでしょうか。