コンクリートに対する棒状物植立方法事件

コンクリートに対する棒状物植立方法事件

 事件名:コンクリートに対する棒状物植立方法事件
【事件番号】 神戸地判 昭和63年(ワ)第2013号 平成5年11月10日判決(控訴)
【参考文献】 判例集(平成5年) 日本知的財産協会


1、判決要旨
 イ号方法にいうユニット手摺の支柱は、本件発明にいう「棒状物」に該当しない。このため、イ号方法は原告発明の技術的範囲に属しない。かかる理由で、原告の差止請求及び損害賠償請求が排斥された。

2、本件発明
(1)特許請求の範囲
 コンクリートに植立しようとする棒状物の外径よりも十分に大径で、かつ、その棒状物の埋込み長さに応じた深さの穴を穿設し、この穴内に右棒状物の埋込み端部を挿入すると共に、残余の空隙に比較的圧縮強度が大きく略々均等な大きさの球形骨材と、コンクリートに対する接着性が良く、良好な成形性を有する固化前の液体の状態にある合成樹脂とを混合状態に充填して、この合成樹脂を固化させることを特徴とするコンクリートに対する棒状物植立方法。
(2)発明の詳細な説明
 球形骨材を使用する理由として、「樹脂の固化前において棒状体が自立できるようにすること並びにその自立位置の位置修正、すなわち、棒状体を横移動させることもできるようにするためである。・・・」との記載がある。
3、イ号方法
 コンクリート1の所定箇所に円柱状孔2を穿設し、予め別途組み立てられたユニット手摺3の支柱4を、支柱4の下端から突出する補強材5を下にして補強材5の末端が円柱状孔2の底面最深部から浮かせられるように円柱状孔2に建て込み、ユニット手摺3をその高さ、水平性並びに垂直性を調整しつつ、円柱状孔2の残余の空隙に略々均等な大きさの球形セラミック製骨材7を孔の深さの約80%に相当する高さまで投入し、次いでエポキシ樹脂とその硬化剤を主成分とするエポキシ樹脂液状組成物8を球形セラミック製骨材7とほぼ同じ高さまで注入し、次いでエポキシ樹脂液状組成物8を硬化せしめ、仕上げ材9を用いて孔の表面を仕上げる予め組み立てられたユニット手摺の固定方法。

4、判断がなされた争点
 イ号方法にいうユニット手摺が「棒状物」に該当するか否か。

5.結論
 特許請求範囲の記載によると、「棒状物」の意義、内容等が客観的に明確だとは言い難い。作用効果等を参酌すると、穴内に挿入される「棒状物」は、それ自体の重量、形状が球形骨材と固化前の液状合成樹脂だけで支持されて自立し得るものと解釈できる。
 これに対して、イ号方法にいうユニット手摺の支柱は、ユニット手摺の重量や長さに対して穴内に挿入される部分が極めて少ない。すると、手摺として高さ、水平性、垂直性等の歪みや傾斜等が生じないように固定するためには、液状合成樹脂の固化前における固定具の使用が必然となる。
 従って、イ号方法にいうユニット手摺の支柱は、本件発明にいう「棒状物」に該当しない。

6、実務上の指針
(1)判決の引用
 イ号方法にいうユニット手摺は、・・・液状合成樹脂の固化前における固定具6の使用が必然であるといえる。(これに対し、本件発明における実施例が示す棒状物たるアンカボルトは、いずれもコンクリートの穴内に半分以上挿入され、極めて安定的に支持物、固定具を必要とすることなく自立するものである・・・)。
(2)執筆者のコメント
 今回の判決では、樹脂の固化前において球形骨材が棒状物を自立可能とした点を作用効果で記載したことがアダとなり、請求項における「棒状体」の適用範囲が狭められてしまった。このような見方をされることもあるので、作用効果の書き方には注意が必要である。
                                       以上