パロディー広告と商標登録

パロディー広告と商標登録

米国知的所有権事情

POLSTER,LIEDER,WOODRUFF & LUCCHESI,L.C. St.Louis,Missouri

J.Joseph Muller

  

 セントルイスの酒類醸造家であるAnheuser-Buschの場合、Michelob Dryというビールに関するパロディー広告の掲載された雑誌に対して訴訟を起こした。そのパロディー広告にはMichelob Oilyとあり、Anheuser-Buschの製品ラベルに使用されているワシとアルファベットのAが描かれていた。また、Michelobという名と Michelobだと分かる縦縞を付した1杯のビールと、独特のデザインを有するMichelobのビール瓶も示されていた。このパロディーでは、DRY の代わりにOILYが使われ、ワシが油まみれになって、「ウィッ」と言っているように描かれていた。また、Michelobのビール缶は、油を注いでいるように示された。雑誌出版社によるこの広告には、編集者のコメントとして小さな活字で次のような警告が含まれていた。Anheuser-Buschはブランドを広めるのと同様に、その醸造所はビール造りに使用する水を汲んでいる川へ油を流出しているとのことだった。

 その醸造所は、その登録商標の侵害、連邦法における不正競争違反、連邦商標登録違反、一般法における不正競争違反、連邦法における商標の効力を弱めるものであるとして連邦裁判所にその出版社を告訴した。出版社に対するその登録商標の使用禁止命令に加えて、一ドル(注:慣用句)の損害賠償金も求められた。出版社は、パロディーが言論の自由の保護形態であると抗弁した。法廷では、醸造所の抗議が支持された。

 次に、Spa’amの場合について紹介する。Hormelは、SPAMという商標で加工肉食品を製造販売している。この商標は、約六十年間使用され、五十億缶以上の製品を販売し、缶詰肉市場では75%のシェアを有していた。何年もの間、その製品はずっと多くのユーモアに利用されていた。例えば、「SPAMは鼻、耳、足、しっぽ、脳みその5つの主な食物群を有する。」といった具合。

 Jim Henson プロダクションは、Muppet(Kermit the Frog,Miss Piggy 等)(注:人形劇ショー)の制作者であったJim Hensonによって設立された会社である。何年もの間、Muppetの登場人物は一連の映画で人気の的だった。最新の作品にはMuppetの宝島がある。この映画では、Miss Piggyを崇拝するイノシシの部族を率いるMuppetの登場人物がいる。彼の名前が、Spa’amである。

 これを面白いと思わなかったHormelは、Spa’amという名の永久的使用禁止命令を求めてHensonの会社を告訴した。彼らの主張は、 Spa’amという名はSPAMという商標を侵害し、そのマークを希釈化させた(すなわち、購買者にその区別をしにくくさせた。)というものであった。 Hormelはその不平を表明したとき、製品の販売量が減ることを恐れた。なぜなら、SPAMという商標は不潔な表現だと悪く関連づけられてしまうと思ったからだ。また、Hormelは、Hensonの会社が映画のキャラクターを描く様々な商品(衣類、本、食物、コンピューターゲーム)を売ることに関しても危惧していた。Hormelも、現在、その商標のついた同じ商品(例えば、衣類)を売っている。そして、腕と脚のついたSPAMの大きな缶をラベルに付したランチ用加工肉食品を市販している。このキャラクターが、「SPAM-man」と呼ばれている。

 裁判官は、この件ではMuppetに有利にその事件の判決を出した。その中で、Michelob事件に含まれていたパロディー問題について述べられた。裁判官は、SPAMは強い商標であり、連邦法は商標所有者を商品の出所に関して混同を生ずる模造品から保護していることを指摘した。しかし、裁判所は本件では出所の混同は生じていないと言った。裁判官の論法は、SPAMという商標はパロディーの役割として使われており、パロディーには出所の混同を生じることはないというものであった。すなわち、パロディーは同時に正反対のメッセージを伝えている。これらは、パロディーにされた材料がオリジナルである間は混乱を生ずるが、それはオリジナルではない。ここでは、Spa’amは人々のパロディー、テレビ番組、消費者のブランド等の他の冗談に沿っており、人々がMuppetsから考えつくものとは別の冗談として理解されている。

 Anheuser Busch事件との違いは、その架空の広告ができる限り本物に見えるように作られていた点にあると裁判官は言った。パロディー広告と現実の広告との間の区別は難しいものではない。Muppetsを見たことのある人は十分にそれを知っているので、Muppetsのユーモアについて何もわかりにくいことはなかった。Muppetsについて調べる中で裁判官により考慮された他の点には、Muppetの宝島のロゴと関連づけられた商品だけにSpa’amという文字が表されることにHensonの会社は同意したという事実も含まれていた。また、この二つの名前は同じように見えるが、Spa’amは第二の「a」が使用されているとともに、二音節語として発音される一方、SPAMは一音節語であるという明確な相違点があることに注目した。すなわち、これらは話された時に異なって聞こえる。二つのマークが関連づけられる製品もまた異なっている。Spa’amは、人形に関連づけられるが、SPAMは加工食肉や缶詰肉に関連づけられる。これらは、全く異なる製品であり、SPAMはブランド名として使用されるがSpa’amはそうでない。Spa’amは、映画での登場人物の名前を示すだけである。これらの区別は、そのマークのついている二次的な製品(衣類、ゲーム等)についても同様である。さらに、Hensonの会社のマークより古くからSPAMを使用していたHormelは、娯楽の分野への展開に関心を示していなかった。

 商標やサービスマークを採用する個人又は企業には、そのマークと同じマークを使用する者に異議を唱えられる可能性が常にある。又は、もしあなたが商標やサービスマークを使用しているならば、誰か他の人が同じマークを使い始める可能性がある。しかし、上に述べたような様々な要因に基づいて判断すれば、自分のマークと誰か他の人のマークとの違いがどれほど顕著であろうかよく分かるはずである。お分かりのように、外見はごまかすことができる。それゆえ、あるマークを使っていくため、あるいは、あなたが自分のものと同じと思えるようなマークを使っている者を告訴するために多くの時間やお金を費やす前に、その分野の専門家にその状況を鑑定してもらったり、あなたがなすべき行動について専門的な助言を与えてもらうのが賢明であろう。

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