位置合せ載置方法事件

位置合せ載置方法事件

東京地判 平成元年(ワ)第9971号、平成6年3月31日判決(控訴)

 参考文献: 判例集 平成7年(日本知的財産協会)

1.事実
【本件特許権の発明の構成】(特公昭60-22500号公報参照)
 (一)載台の上面と「略同一形状」の薄板状被載置物をその面積の少なくとも半分以上が該載置台に載るように載置し、
 (二)「該被載置物の載置と同時に或いはその前又は後に」、該載台の上面をほぼ全面にわたって液体の層を生成するのに充分な量の液体を供給して該載台の上面及び該被載置物の下面に付着する液体の層を生成し、
 (三)該液体の表面張力によって該被載置物を該載台の上面の実質上中心位置に移動せしめる
 (四)ことを特徴とする位置合せ載置方法

【被告装置の争点の構成】(一部省略)
 仮り受け台7の上面中央部には水供給孔8が設けられ、図示しない水供給装置により仮り受け台7の上表面に水が供給できる。また仮り受け台7の上面は、載置物であるウエハ1とほぼ同一の円形状であり、その直径はウエハ1の直径よりやや大となっている。
(動作の説明)
 A.反転アーム6はウエハ1の裏面を吸引保持して該ウエハ1を180度反転して仮り受け台7の上方まで搬送する
 B.水供給孔8から水が仮り受け台7の上表面に常時供給され、該上表面からは常時仮り受け台周縁から流れ落ちる水の層9を形成している
 C.搬送されたウエハ1は、その裏面を上にして仮り受け台7の表面の水の層9を圧縮して、水の層の水をはね飛ばして仮り受け台面に押圧状態で載せられる
 D.ウエハ1は、仮り受け台7の表面にその中心が合致するように載り、常時供給される水によって形成される水の層9の上に浮遊する
 E.このとき、ウエハ1の中心位置が万一ずれても、仮り受け台周縁から流れ落ちる水の層9の表面張力によって水の流れに従って、ウエハ1はその中心位置が仮り受け台7のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊する

2.争点
(1)被告装置の仮受け台における被載置物の載置方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か。特に、被告装置が、仮受け台の表面に形成された水の層の表面張力により被載置物の中心位置合せを目的とするものであるか否か。
(2)被告装置が本件発明にかかる位置合せ載置方法の実施にのみ使用されるものであるか否か。特に、仮受け台における被載置物の洗浄機能を有するか否か。

3.結論
(1)被告装置の載置方法は、本件発明の要件(一)~(四)をすべて充足する。したがって、被告装置の使用は、本件特許発明を実施する。
(2)被告装置の仮受け台は、ウエハの中心位置合わせ機能を有するとともに、中心位置合せを目的とし、他の機能ないし目的を見出しえない。(したがって、被告装置は本件発明にかかる位置合せ載置方法の実施にのみ使用されるものである)

4.実務上の指針
(1)判決の引用
<争点(1)について>
 (要件(一)について)「略同一形状」は、・・・・載台の上面と薄板状被載置物とが、大きさのみならず、形状まで略同一でなければならないか否かについて必ずしも明らかではない。・・・・本件発明にいう「略同一形状」は、・・・・その大きさが略同一であるものを指していると認められる。・・・・被告装置において、ウエハの大きさと仮受け台の大きさとはほぼ同一であるものと認められるから、本件発明の「略同一形状」に該当する・・・・。
 (要件(二)について)被告装置においては、仮受け台の上面に常時水が供給されているものと認められ、・・・・被載置物の載置の前に水を供給している・・・・から、本件発明の「該被載置物の載置と同時に或いはその前又は後に・・・・液体を供給して」に該当する・・・・。
 (要件(三)(四)について)被告装置においては、ウエハは一旦は仮受け台の表面にその中心が合致するように載せられるものではあるが、その後・・・・ウエハが水面を浮遊し、中心位置がずれることがあること、・・・・常時供給される水によって形成される水の層の表面張力によって、ウエハの中心位置が仮受け台のほぼ中心位置になるように移動して水の層の面に浮遊することが認められる。・・・・被告装置が、水の表面張力により、ウエハを仮受け台の中心に位置合せする機能があることは明らかであるから、被告装置の載置方法が、本件発明の・・・・要件(三)、・・・・要件(四)を充足する・・・・。
<争点(2)について>
 被告装置の仮受け台は、ウエハの中心位置合わせ機能を有するとともに、中心位置合せを目的とし、他の機能ないし目的を見出しえない・・・・、本件発明においては、・・・・液体もしくは液体の流があることから生じる程度の洗浄機能は当然にありうること、しかし、・・・・洗浄機能はあくまでも付随的なものにすぎない・・・・被告装置の仮受け台が、水の流れに付随的に伴う洗浄効果以上の、実質的に意義のある程度の洗浄効果を有することを認めることはできず・・・・。

(2)執筆者のコメント
 以上のことから、「被告装置の使用は、本件特許発明を間接に侵害するものと認められ、かかる侵害行為は・・・・過失があったものと推定され」、「被告には・・・・損害賠償すべき責任がある」と結論づけられました。
 個人的には、争点(1)(2)について特許権者が有利となるよう論理で結論づけられている印象を持ちました。例えば、「略同一形状」の解釈については、一般には「ほぼ同じ形状」という意味になると思いますが、このような厳密な解釈は行われていません。もっとも、明細書を書く立場からすれば、疑義が生じるような書き方は避けるようにする必要があると思います。
 また、被告装置そのものは特許の技術的範囲に含まれるわけではないため、「業として、特許発明の方法の実施にのみ使用する物を生産等」(間接侵害)の要件を満たすかどうかが判断の対象となっています。本件では、要件を満たすと判断されたため、特許権の侵害が成立しました。現在では改善多項制が導入されていますので、間接侵害の対象となる装置等を記載した請求項も付加しておいたほうがよいと思います。特許権が成立すると、「方法の実施にのみ使用する物」でないと反論される余地がなくなります。
 一方、被告の立場としては、有意義な効果を見いだすことが方法の特許権侵害を回避する手段の一つになります。
                                    以上