豆乳用フレーク事件

豆乳用フレーク事件

:特許権侵害差止請求等:平成5年(ワ)第1748号:大地(H6.3.29):控訴

 まず、原告特許のクレームを説明します。クレーム1は「ブラッシングによって原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去したのち、当該原料大豆の皮が身と分離しやすい状態になるよう水分量の調整をし、これを皮と身とに分離すると共に、身を4ツ割から8ツ割に処理して得た粒状物を圧へんローラーにて満べんなく分散されたフレーク状に構成したことを特徴とする豆乳製造に好適な食品の製法」で、クレーム2はこの装置です。
 被告製品は、ロータリーシフターというパンチングメタルを利用した篩いを使用しており、この篩いが「ブラッシング」にあたるか否かが最も重要なポイントとなりました。
 原告は、ブラッシングについての説明がほとんどない一方、その作用効果的な記載でブラシマシンで土壌及び土壌菌を除去することを記述しています。「ブラッシングで土壌及び土壌菌を除去する」という図式を、「ブラッシング=研磨」と「篩い→大豆同士が擦れ合う=研磨」という理由によって「ブラッシング=篩い」と見なし、「篩いも土壌及び土壌菌を除去する」と説明しています。
 被告も裁判所も大豆同士が擦れ合うことによって研磨作用が生じることについて否定していないにも関わらず、結果的には非侵害となりました。裁判所はブラッシングに期待される機能から器具を特定しました。少なくとも、本件明細書の記載からはブラシないしこれと同等の機能を有する器具を使用して行う研磨処理を意味するものと解すべきであると判断しています。そして、篩いではかかる研磨処理は期待できないということです。
 ところで、本件明細書には従来の方法として「丸大豆の洗浄、水浸漬、グラインダー工程」があったように記載されています。そして、本発明によってその工程がなくなったということです。どうしてなのかという疑問をいだきませんか?確かに本発明の実施例の装置を利用することによってそういう工程がなくなったのだと言われるのは結構ですが、どうしてかということを押さえなければ権利はざるになるということも事実です。もし、二つの技術的課題があったのに一つの発明として理解してしまったとしたら、それぞれ個別に課題を解決する装置があったとしても押さえきれません。ましてや解決する手法の組み合わせを変えてしまえば両方の装置を利用しても侵害にならないことが起きます。だからこそ、「何故か」と疑問をいだき、技術的に裏付ける必要があるわけです。
 本発明について好意的に技術を解釈するならば、ブラッシングは丸大豆の洗浄に該当し、水分量の調節は洗浄後の水浸漬に該当し、皮と身を分離して身を8ツ割等して圧へんローラでフレーク状にすることがグラインダー工程に該当するものと理解できます。それぞれが単に置き換えただけでなくそれなりの意味があるはずではないでしょうか。その意味を掘り下げていれば違うクレームになることは容易に想像できます。
 例えば、ブラッシングは必要だったのでしょうか?後の工程との関係で土壌の付着の有無が技術的に影響を与えるとはとても想像できません。土壌を除去するのは食品を扱う上で当たり前のことですが、課題を技術的に解決する発明と直接的な因果関係を有しているのでしょうか。むろん、土壌菌の有無が決定的な影響を及ぼすというのであるならば、その点だけで発明といえ、後段部分とは切り離せるでしょう。
 本件は控訴中のようです。結果はともかくもこのような問題に巻き込まれないためにも、「何故か」と疑問をいだいてその点を押さえられるようにクレームとそのフォローを記載しておきたいものです。