パチンコ遊技機事件

パチンコ遊技機事件

昭和56年(ワ)第3010号 昭和61年2月26日判決(確定)

1、判決要旨
 本件考案にいう「打玉待機路」は、被告製品における「2個の玉の帯溜しうる部位」に該当するとみることはできず、被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないので、原告による損害賠償請求は棄却された。
2、事実及び争点
 <事実>
(1)本件考案の構成
 玉打カン4の直前に誘導路3を導き、誘導路3の途中に定速玉送り装置を設けて、定速玉送り装置と玉打カン4との間を打玉待機路11とする。
(2)被告製品の構成
 固定玉受片18上および間欠玉通過揺動レバー23aの誘導樋23hの前端部上に各一個合わせて2個の玉が互いに接して帯溜し得るようになっている。
 <争点>
 被告製品の「2個の玉の帯溜しうる部位」が本件考案にいう「打玉待機路」に含まれるか否か。
3、結論
 被告製品の「2個の玉の帯溜しうる部位」は、本件考案にいう「打玉待機路」作用効果を有しない。従って、他の構成要件と対比するまでもなく、被告製品は本件考案の技術的範囲に属しない。
4、実務上の指針
(1)判決の引用
 本件考案の作用効果に関する記載と本件考案の出願の経過に間する事情とを・・・遊技取締規則所定の制限以上速さで球を打つことができ、早打ちを楽しむことができるとともに休んだ時間を取り戻すこともできるという作用効果を奏するものでなければならず、したがって、本件考案にいう打玉待機路11は、早打ちを楽しむことができ、かつ、休んだ時間を取り返すことができる程度に相当多数の玉が帯溜しうる構成のものに限られると認めるのが相当である。
 ・・・被告製品においては、・・・合わせて2個の玉が互いに接して帯溜し得るようになっていることが明らかである。そして、原告らは、被告製品における右2個の玉の帯溜しうる部位が本件考案にいう打玉待機路11に該当する旨主張する。
 しかしながら、被告製品において、帯溜しているわずか2個の玉を早打ちしたからといって、早打ちを楽しむことができるとはとうてい考えられないし、また、2個の玉を早打ちすることによって取り返すことが可能なのは、2個の玉の供給に要する時間以下であるところ・・・2個の玉の帯溜しうる部位が本件考案の打玉待機路11に該当するとみることはできず、被告製品は本件考案の構成要件Cを充足しないというべきである。・・・被告製品は、本件考案のその余の構成要件と対比するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないこととなる。
(2)執筆者のコメント
 本件考案の請求の範囲では、打玉待機路の作用効果について何も記載がないので、詳細な説明に記載された作用効果が参酌され、また、原告は本件考案の進歩性は上記作用効果を奏する旨を出願の経過において主張している。従って、出願人は本件考案の作用効果について意識的限定を行ったと考えられる。また、特70条の判断基準では、特許発明の作用効果を奏さない発明はその特許発明の技術的範囲に属さないので、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さない。
 従って、クレーム2において定速玉送り装置で100個/分の速度で玉を送ると上記作用効果があるとして、メインクレームの定速送り装置の説明としては、「所定の速さで玉を送ることができれば良く、打玉を休んだ後再び打玉を開始できるように打玉待機路に所定速度で玉を送るようすればよい。」などとすればよかったかもしれません。ただ、このような説明ではメインクレームでは進歩性の欠如により権利取得は難しいような気もします。