文字の商標

商標を出願するためには商標見本が必要です。以前、日本では、この商標見本として必ず印刷したものを用意しなければなりませんでした。ホント、ずいぶん以前の話です。

印刷したものと記載されているため、コピー機で作成したものは複写したものとなり、受け付けてもらえませんでした。特許庁は登録することを許可した商標を公報に載せる必要があるので、写真製版するに足る品質の原稿が必要だったのです。

コピー機の品質というか特徴というか、ここでは敢えて深入りしませんものの、コピーの出力には実はいろいろな特徴があり、どれもこれも同じというものでないことは事実です。特許庁としても、コピーによってはテカテカしているものもあれば、つや消しのようなものもあり、コピーを許可しづらかった事情があったと思います。

商標見本とは、文字通り、商標出願する対象である商標を印刷したものです。酒の瓶のラベルのように、図柄と文字とが混在し、住所や会社名まで印刷されているものをそのまま使っても良いですし、図柄と併用することが通常であるとしても、文字だけを抽出して見本とすることもできます。

文字も特殊な字体を使っているのであれば、その自体を活かして商標出願しても良いですし、色々な字体を使うことを前提としてなるべく標準的な字体のまま出願することもできます。

標準的な字体といっても、それだけでもまずはゴシックと明朝という二種類がありますし、字体をこだわらないとしてもどちらかを決めて印刷したものを用意する必要がありました。

今日では、商標の出願時に、「標準文字」と指定することで商標見本を用意せず、商標登録したい文字を願書に記載するだけでもよくなりました。

標準文字とは、字体、色、大きさなどを指定しないという意味になります。標準文字で登録を受ければオールマイティということになります。

そこで、良く聞かれるのが標準文字で登録した商標の権利と、ある字体を使って商標見本を用意して登録した商標の権利には、権利の広さに差があるのかということです。また、現実には常に一定の字体を使っているときに、その字体を使って登録を受けるのがよいのか、標準文字を使って登録を受けるのがよいのかということです。

これは色を付けた方が良いのか否かということにも似ていますが、取り敢えず今回は字体のことだけで考えます。

違いがある場合として答えられるのは、極端な例だけです。例えば、元々はある文字なのですが、かなり字体を崩しており、元の文字として読むのは難しいような商標があるとします。

この場合、先に普通の書き方をした文字の商標が登録を受けており、後で字体を崩した文字が商標出願されたとしても、字体が崩れていて元の文字として読めないのであれば、両者は非類似と判断されて後者も登録を受けることができると言われています。

線引きは難しいのですが、アルファベットの花文字と呼ばれる程度のものではダメだと判断されているようです。

この意味では、通常、字体を変えても本来の文字として機能して読めるのが基本ですから、字体を変えたことで商標の権利の範囲が変わるとは考えにくいと言えます。

ですから、標準文字で出願しておく方が「手間」が省けるので良さそうです。

ただ、事実は小説より奇なりなので、何が起こるか分かりません。その意味で、商標を守りの手段と考えると、実際に使っている商標そのものを出願することをお勧めしています。商標の場合、登録されれば使っても良いというお墨付きになります。特許の場合はそうともいえないというお話を以前書きましたが。
2007年01月16日 03:17