発明に必要な進歩性

発明は、新しく、かつ、進歩性を備えていなければならない。

進歩性とは一般的な感覚に依れば「優れた発明」ということになるでしょうが、不公平が生じないように審査するためには基準が必要です。今回は、その基準のお話しをします。

基礎となる考え方は、次のようなものです。まず、仮の人間Aさんを想定します。Aさんは仮の人間なので、古今東西、このように存在する全ての技術は知っています。知らない技術はありません。Aさんはスーパー技術者なのです。

特許庁では、出願されてきた発明について、Aさんが自分の知識に基づいて発明できただろうと想定しつつ、それが一般の技術者にとっては容易だったら進歩性がないと判断し、容易ではなかったのであれば進歩性があると判断します。

「分かりやすく説明しようとしているのか、理解不能にさせようとしているのか分からないぞ」と叱られそうですが、これが現実なので受け入れてもらうしかありません。でも、それはそれとして、「じゃーなんなのよ。」と聞きたいところではないでしょうか。

ところで、上の基準は、ある発明以外に適用可能なもので、例外的なものがあります。それは、パイオニア発明というもので、既存の技術とは全く縁もゆかりもないような発明を言います。

それ以外の発明というのは、世の中の既存の技術を組み合わせたものなのです。発明者は自分の技術は全く独自と考えているとしても、まず、9分9厘、公知の技術の寄せ集めとなります。

スーパー技術者Aさんが必要なのはそのためです。発明者は自分で考えたと主張するとしても、Aさんからみれば「いやいや、あなたの考えた発明は、どこそこの技術に、どこそこの技術を組み合わせたものです。」と言ってのけます。

ただ、そこで特許庁が考えるのは、ではその組み合わせが一般の技術者には容易でないとする線引きをどこにするかということです。その基準は次の二つといって良いと思います。

1.ある技術に別の技術を組み合わせるとしたとしても、それぞれの技術が関連がないのであれば、スーパー技術者Aさんなら可能であるとしても、一般の技術者にそれを求めるのは酷であり、組み合わせは容易ではなかった=進歩性があったと判断する。

2.ある技術に別の技術を組み合わせて実現できることは確かであり、かつ、それぞれの技術が関連している場合でも、組み合わせた場合には予想以上の効果が得られるなら、組み合わせは容易ではなかった=進歩性があったと判断する。

例を挙げましょう。1の例ですが、「エンジン製造の分野ではよく知られている技術に対して、塗装の分野でよく知られている技術を組み合わせた。それぞれ関連のない技術分野ですから、エンジンの気化器に塗装技術では知られているある工夫をしたことで高出力を得られるようになった。」のであれば、進歩性は有りでしょう。

2の例ですが、「鉛筆の一方に消しゴムをくっつけた」としますと、鉛筆も筆記具、消しゴムも筆記具なので、同じ分野であり、かつ、鉛筆を使うときには消しゴムを使えず、消しゴムを使うときには鉛筆を使うことはできないわけですから、鉛筆と消しゴムが同時にあること以上の効果もありません。

なので、この場合は2の例に該当して進歩性有りというわけではありません。ただ、「消しゴムが反対側に付いていることで、鉛筆で書いているときの不要な振動を吸収することができ、真っ直ぐな線をきれいに書ける」な?んてことが本当に言えるなら、鉛筆の効果と、消しゴムの効果の総和以上の効果が得られるので、予想以上の効果が得られたとして進歩性有りということになります。
2006年12月18日 00:56