分かりやすい特許請求の範囲

特許請求の範囲というのは、その言葉通り、特許権をとりたい発明の内容を書く部分です。権利の内容を書く部分なので、とても重要です。文言の一字一句が熟考された上で決定されます。

いろいろな意味で「先読み」して考えられた言葉なので、ある意味、分かりにくいです。殆ど日本語じゃないという人も多く見えます。しかし、これで煙に巻かせて侵害行為を牽制しようとする意図もあったりします。

しかし、最近はこの分かりにくい表現をやめて分かりやすい表現にしようとする動きがあります。実は、その動機は本来とは違っていたりします。結果としては私はそれでよいと思ってはいますが。

本来、特許請求の範囲は「発明の構成に欠くことができないことだけを簡潔に書く」べきです。「構成に欠くことができない」という部分が非常に大事で厳格に解釈します。

逆に言えば書いてあることは「必須」であり、理解しやすくするためであったとしても、書いてあったことを後から「必須ではない」とは言えません。「警告ランプを明るく点灯して」と書いてあれば「ちょっとだけ点灯するのであって明るくとまでは言えない」ものは権利範囲に含まれないかもしれません。

「少なくとも一つ点灯させる」と「一つ点灯させる」とは違うのか?「一つ点灯させる」と書いてあるものは「二つ点灯させる」場合を含むのか?などなど、普通は問題にならないような表現もここでは重要です。

また、構成に書くことができないことは書いてないといけませんから、重要ではなくてもこれがないと物として完成しないようなものは書いておかないといけません。つまり、一見重要ではないものでも書いていないといけない物もあります。

Aというパーツと、Bというパーツと、Cというパーツとがあって、初めてある部品ができるとします。すると、Bにだけ特徴があるとしても、AとCとについても書いておかないといけません。

そんなことが背景で特許請求の範囲というのは分かりにくいのですが、大きな会社ですと特許の部署が大きく、現場の特許担当者の上に、課長、部長、取締役などがいらっしゃいます。課長はともかく、部長や取締役ともなると個別の技術の細かなところまで把握していません。

もちろん、自社の技術のことはよく分かってみえます。なので、上のABCの場合ですと、Bだけ説明すればAとCのことは説明しなくても分かるのです。そして、逆にAとCのことを説明すると、ポイントはどこにあるのか分かりにくくなってしまいます。

このため、社内での発明の検討会などにおいてはBだけを説明した方が効率的となります。そんなこともあって、理解しやすくするために、最初の特許請求の範囲にはBだけを書きます。むろん、それだけだと不十分になりがちなので、いつでもAとCとを加えられるようにしておきます。

取締役対策というのもおかしな言い方ですが、我々の側でも、特許を執筆しているときはよく理解していても、2?3年もするとどこが本来の特徴だったか忘れてしまうこともありますから、このような書き方ができるのは歓迎です。

最近は、このような書き方をする必要性が出てきました。ただ、それですぐに書き方を変えられるかというと、変えられない人もまだいるように感じます。
2008年05月23日 08:19