滑り込みセーフ

ある企業がとても有用なものを発明しました。ことのはじめは些細な工夫だったのです。流行のエコといえばエコなのですが、当時はエコよりも、とにかく自分の会社で困っていたことを解消したかっただけでした。

当時、業績が好調だったものの、海外シフトを強めるクライアント企業の希望により、いつかは海外への移転は仕方ないとは考えていました。そして、その時期を延ばしているという状態でした。

業績は好調なものの、将来のために何かしておきたいということから、特許の取得に目が向きました。その時点でたまたまあった一つの工夫を、手始めに特許出願しておこうということになり、当所に依頼されました。

ただ、本業が業績が好調なものですから、その発明に手を掛けている時間がなく、特許出願はしたものの誰かに見せるということもなく、しばらく放置していました。

通常、海外へ出願しようとするときには、最初の日本出願の日から1年以内に行います。このため、1年を経過する前に、私の方から「あの出願は外国出願をする必要はないのですか」と声を掛けたものの、本業が多忙なため1年は過ぎてしまいました。

誤解してはいけないのですが、1年を過ぎたら外国出願できなくなるというわけではありません。あくまでも、1年以内に出願した場合には、最初に日本で出願した日に、外国へも出願したとみなされるという特典が与えられるというだけなのです。

しかし、1年6ヶ月を経過すると、特許出願の内容が公報に掲載されるので、それ以降は外国で出願しても特許をとることがほぼできなくなります。

このため、念のために、私の方から1年6ヶ月を経過する前に再度声を掛けました。そうしたら、やはり外国へ出願したいとおっしゃいます。それも業績が好調だからできるだけ多くの国に出願したいとおっしゃいます。残された時間は2週間足らずでした。

このため、日本語による特許協力条約に基づく国際出願をしました。これは、日本語で日本の特許庁に所定の書類を提出することで、特許協力条約に加盟している全ての国に出願したことになるというものです。

よく国際特許と言われているのはこの国際出願のことを指すようですが、出願しているだけで特許がとれているわけではないことが多いので注意しないといけません。

そのようなわけで、なんとか日本で公報に掲載される前にたくさんの国に対して有効となる特許出願は間に合いました。滑り込みセーフといったところです。

国際特許出願にはメリットもデメリットもありますので、オールマイティなものとは言いませんが、ときによっては「これしかない」といった使い道があります。このケースでは、まさにそのような使い方ができたと思います。
2007年12月29日 23:03