職務上の発明の対価

東芝のワープロ変換技術に携わっていた元社員で現湘南工科大教授が対価不十分として東芝を提訴しました。特許権は1998年に消滅しており、対価として遡及して請求できる96年と97年の分として、2億6千万円を請求しているそうです。

これは職務発明と呼ばれる領域の話題です。通常、会社員は雇用される際に会社に対していろいろな約束をするわけですが、その際に、職務上命じられた開発等で得られた発明については会社に特許を受ける権利を譲る代わりに、相応の対価の支払いを受けるという契約が入っています。

特許侵害のような損害賠償ですと、損失した額を証明することが大原則となり、算出は大変です。また、相手が得た利益でもって損害額とみなすというような代替案などもあります。でも、損失した額という算出できなさそうなできそうな何らかの基準があります。

これに対して、相応の対価となると何をもってして相応とみなすのか難しいですね。会社が得た利益に対して、会社の貢献率と、発明者の貢献率のバランスをとって計算するのでしょうか?

2億6千万といっても2年分なので、15年間もらい続けたとしたら19億5千万円の対価はもらうべきだったということでしょうね。

会社の言い分としては、そもそもワープロの開発には莫大な費用がかかっている。研究施設も用意し、社員の給料も支払い、全てそのリスクを会社が負った上、職務として与えられた業務の遂行の結果なんだから、結果的にはいくら莫大な利益を得たとしても、他の社員をさしおいて、一部の開発者にだけ莫大な対価を支払うわけにはいかないという感じです。

一方、社員の側は、会社がいくら金を出そうとも、「あんたじゃ100年かかってもできないものを開発し」、その結果でワープロ事業部が莫大な利益を上げ続けてこれたんだから、莫大な利益のほんの一部くらいは払われてもおかしくないといった感じでしょう。

アメリカでも同様の問題は生じるはずですが、アメリカでは開発者の成果を常に考慮した査定が行われており、不満があり、それが正当なら他の会社がヘッドハンティングするから大きな問題にならないということを聞きました。本当にそうなのかどうかは分かりませんけど。

ただ、職務発明については以前から、職場でのいじめが原因だという指摘もされています。いったんはいじめで追い出してしめしめと思ったとしても、最近はこのような職務発明としての対価の請求で後から帳尻を合わせられるということもあるようです。

むろん、今度の訴訟にそのような背景があったと聞いているわけではありません。湘南工科大教授という地位につかれている人ですから、物作りの対価が低い日本で、理工系の学生に対して未来を切り開こうとされているのかもしれません。
2007年12月12日 19:12