詰め替えインクと特許

先日の日記に対して詰め替えインクの話題を書いていただきましたので、それについて触れたいと思います。

確かに、ご指摘のとおりの問題があります。詰め替えインクは安いし、問題なく使えている。たとえ壊れたとしてもインク代だけで本体が買えてしまうような値段です。では、本当に違いがないのか?と言えば、実は違いがあるのです。

現在のインクジェットプリンタは写真に匹敵するものとなっています。写真に匹敵するといっても写真とは根本的な原理の違いがあって、写真と同等と言わせるのには、いくつかの技術的な困難を克服しなければなりません。

当初は、インクはC(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(ブラック)の四色でしたが、これだと色の薄い部分でどうしてもアラが目立つということで、シアンとマゼンタについては色の薄いLC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)を加えた六色を採用するものが多くなっています。

写真の場合は印画紙が一定の品質を持っていますから、紙の変化によるできばえの変化はあまり問題になりません。しかし、インクジェットの場合は、ユーザーが利用する紙の種類が多く、紙の違いによる出来映えの変化が大きいので、そのための対応も大変です。

このようないろいろな問題を克服して写真に匹敵する画質を得られるのですが、インクには技術的な問題とどのように関連があるのでしょうか。

色の濃さはデータで表されています。ごくごく簡単に言えばCMYKのそれぞれで256段階の濃さを表しています。でも、この濃さの変化は実は非常に曖昧です。たとえば、白から黒まで単純に3段階で表すとしましょう。白、灰色、黒です。

原画像がこの三色で表しているときに、三色のデータだけで確実に原画像を表せますか?白と黒はとりあえず妥協するとしても、灰色というのが実に漠然としていますから、単にデータをもらっただけでは原画像を復元できるはずもありません。

実は、256段階というように細かくしたとしても、この問題は解決できるわけではないのです。256段階を均等に細かくしたとしても、ある人の考える均等さと、別の人の考える均等さとは違いがあります。

単純に言えば、ある人の均等さは全範囲でまっすぐな直線となっているとしても、別の人の均等さはあるカーブを描いているという表現は分かりにくいでしょうか?技術的には物差しの違いでなんとでも「均等」なカーブを作り出すことができるのです。

詰め替えのインクと、標準のインクとの違いは色々ありますが、このようなカーブの基準がそもそも全く違います。メーカーはインクに併せてこのカーブを作っていますから、データに基づいて印刷させると原画像をほぼ表すことができるのです。

ある面、過剰品質なのかもしれませんが、特許を出願し、製品化させているプロセスでは、このように一歩先の目に見えないような技術的課題も解消していることが多いのです。

ここでは色の再現性という観点だけを説明しましたが、他にも問題はあります。ただ、インク代で本体がほぼ買えてしまうという現実からすると、「インクがなくなったら本体を買ってしまえばよい」という究極的な選択を否定する手段が見あたらないのも事実です。
2007年11月12日 16:08