36条違反

 最近、特許庁の審査では36条違反という拒絶理由を通知することが頻繁に起きています。この違反は、当業者が実施できる程度に特許明細書が記載されていないというものです。

 当業者が実施できる程度か否かというのは非常に曖昧な基準です。誤字をさしてそのように言ってくることもあれば、技術的な矛盾をさして言ってくることもあります。多少の誤記で当業者が実施できないということはありえないとは思うものの、修正はします。

 最近、受けたのが、非常に難しい技術のもので、数式に使っている変数の説明がないというものでした。工学博士の発明で、大変面白いのですが、一連の数式(数はほとんど出てこず、殆どギリシャ文字)を見て理解できる人もそうそうはいません。

 それでは当業者が実施できない?と考えられる方もみえると思いますが、特許庁での当業者はこの世の知識を全て持っていつつ、一般的な推測力や理解力を持っている人というのが基準です。

 ですから、工学博士の難解な数式でも私が理解できたのであればその記載で問題ないはずです。それにもかかわらず、数式中のXが何を指しているのか不明だとの指摘でした。それも数式(1)の中の式です。

 敢えて数式(1)などとここに書いたのは、実は最も基本的な数式として書いたものであって、教科書に載っていてもおかしくないような式なのです。とは言っても、私も博士の説明を聞きながら理解しているので、全く手ほどきもなければ分からないかもしれません。

 それにXがどのようなものかはだいたいは分かるものです。最も基準となりそうな軸上の距離に決まっているわけで、その説明がないから分からないというならそもそも当業者として失格です。

 というように文句を言いたいからここに書いているわけではなく、実は特許庁の人材不足が甚だしいことで生じている弊害を知って欲しいということなのです。特許庁のHPを見ていただければ分かるように、特許庁は期間限定の審査官を大募集中です。

 期間限定というのは、米国からの圧力で審査期間を短縮しなければならず、そのためには現在たまっているものだけでも早く片づけたいということです。

 その後のことはどうする?という疑問があるかもしれませんが、その点は特許庁が大手出願人に圧力をかけて出願件数を減らせと命じていることは以前も書いたとおりです。

 そのようなわけでにわか審査官(とは言っても期間限定の人は審査官を助ける役目をするだけで審査官にはなれない)が審査するのでこういった拒絶理由を濫発しがちな今日この頃ということです。
2007年10月15日 22:29