本当に些細なこと

業界ごとにつまんないことにこだわっていることがあるはず。つまんないと言っても、その業界ではいろいろ言いたいことがあるわけで、酒でも飲みながら話をすれば止まらないような話題。

内的付加、外的付加。我々の業界でそのような話題としてあげられるのがこれら。これは、特許請求の範囲の権利範囲についてのうんちくです。

特許請求の範囲は、複数の請求項を書くことができるのですが、通常は、上位のものから、下位のものへと流れを作って書きます。流れといっても、ちょうどコンピュータのフォルダのようなもので、一つずつ下位に下っていく場合もあれば、複数のものが並列的に記載されつつ、それぞれに下位のフォルダを持つというようなものもあります。

特許請求の範囲とはいわゆる権利範囲を決めるための文章で、ここに書かれた文言のすべてが合致して初めて権利範囲、権利侵害となります。ですから、この文章の中の一つでも合致しないものがあれば権利範囲外ということになります。

「丸くて、真ん中が凹んだ、お皿の形の灰皿」と書いてあったとすれば、凹んでいる部分が真ん中からずれているなら権利範囲外ということです。流れを作るというのは、このように真ん中が凹んでいるとしても、その凹みの形状は三角であるとか、四角であるというように限定するということです。

請求項1が先のような灰皿であるときに、請求項2は「凹みが三角である請求項1に記載の灰皿」と書きます。また、請求項3として「三角の凹みが二重底となっている請求項2に記載の灰皿」と書くこともできます。

このように書いてあるとすれば、請求項1→請求項2→請求項3という順番に限定していったことになります。これは内的付加の典型例です。

一方、同じ請求項1に対して、「周縁部分に断面U字型の溝を形成した請求項1に記載の灰皿」と書くこともできます。この溝の場合、請求項1には何も触れていなかったことを突然限定して書いているので、外的付加と言います。

特許の文章は原則として、一つの発明を書くことになっていて、内的付加は最初の発明を限定していっているのであって問題ないと考えやすいのですが、外的付加は違う発明を書いているのに近いという感覚があります。

私などはこういった外的付加のスタイルは大っ嫌いです。何の抵抗もなくこう書ける人がうらやましい気もします。どちらかといえば、机の上にリモコンが散在しているよりも、一様に同じ向きに並べておいて欲しいタイプの人間です。

この外的付加が許されるかどうかということについての結論ですが、特許庁はその書き方を特に禁止してもいなければ、推奨することもありません。

外的付加とは言っても、上の例であれば周縁部分が意味するところを、我々は容易に理解できます。つまり、灰皿には周縁部分と呼ばれておかしくない部分があり、その部分に溝を形成してあるということも想像に難しくありません。

言い換えれば、請求項1の発明は「周縁部分と、その内側部分とがあり、内側部分の真ん中に凹みがある灰皿」と同じといえば同じなわけです。

ですから、このように暗黙に言えてしまうのであれば、特許庁も(普通は)何も文句を言うことはありません。時々変なのがいてこの手の話題に触れてくる人がいますけど、木を見て森を見ていない審査官です。

その反対に、このような言い換えができず、想像に優しくない部分の補足が必要となるような場合には「不明瞭」として拒絶されるのではないかと思います。外的付加は突然・・という要素を含んでいるので、上位の請求項でもう少し上手な言葉遣いにしておけば生じません。
2007年05月17日 15:40