地域団体商標について

一般の方には関係ないのですが、地域団体商標という制度があります。たとえば、讃岐うどん。これが地域団体商標として登録されたことで、特定の人達以外は讃岐うどんという名称を商品に使えなくなったのはご存じでしょうか?

多くのうどん屋さんが非常に困ったそうです。とは言っても、別の見方をすればそういった人達は讃岐地方で作られたうどんではないにもかかわらず、讃岐うどんといって商売をしていたわけですから、LVなどの偽ブランドと言われても仕方ないということでしょうか。

そもそも、なぜ今頃そのような問題が起きたのかということについてご説明しましょう。商標登録制度の使命は、ある商標をつけた商品の出所をはっきりさせるということにあります。付随的な目的もありますが、この出所表示機能を保護することで付随的な効果が得られるわけです。

出所表示を機能させるためにはいくつかの要件が必要だと考えられ、それが商標登録のためのもっともベーシックな要件となっています。一方、出所表示機能を働かせるために登録制度を設けるとしても、それが弊害となってはなりません。

たとえば、地名は誰もが使う必要があります。東京都などという商標を特定の誰かに登録させてしまって他の人が使用できないというのは困ります。また、その商品そのものの名前、たとえば、うどんという名称をAさんに登録させることで、ほかのうどん店が使用できなくなるというのはあるべからざることです。

このような訳で、地名や、商品名称は、登録できないものとされていますし、それを組み合わせただけのものも登録できません。そうなって困ったのが地域の名産でした。

讃岐うどんといえば、讃岐地方特有の腰のあるうどんです。しかし、地名と、商品名称ですから登録できません。また、この地方では一般的なものですから誰か特定の人に登録するというのも他の人にとっては困りものです。

一方、東京の下町にあって、讃岐地方の原料すら使っていない製麺所が讃岐うどんと書いたうどんをスーパーに卸しており、そのうどんを買った消費者は「やっぱり讃岐地方のうどんはおいしい」といってそのうどんを買い続けられる状態というのも困りものです。知らなきゃ一緒とも言え無くないですが・・。

流通の効率化によってそういった弊害が目立つ事態になり、地域団体商標制度として、一定の要件を満たせば登録できるようになりました。

一定の要件というのは、地方ごとに正規に登録されている組合などが出願し、ある程度有名になっているものであれば登録できることになったのです。そして、登録された場合は、その組合員に限り使用できるということになりました。

私が育った町は名古屋市の有松というところですが、古くから有松絞りとして有名です。今は時代の変化からか有松鳴海絞りと呼ぶのですが、これも地域団体商標として登録されました。

さて、ここで一つ問題になったのが、同じ地方に複数の組合ができてしまっている場合です。こういったものは互いに勢力争いをしているのは想像に難くありません。地域団体商標制度も複数の組合に別々に登録を認める訳にもいきません。

松阪牛もそんな問題があって登録できるとか、できないとか言われたこともありました。ちなみに、松阪牛の場合、組合ごとに等級の決め方が異なり、一部の厳しい組合では2級になる牛でも、別の優しい組合では1級として売れる訳です。そのため、統一することに抵抗のある組合同士が対立していたと聞いたことがあります。

残念ながらうちのクライアントとは全く関係ないので、どういう経過をたどったかは残念ながら知りませんが、今は複数の組合が共同して出願して登録されているようです。一方、うちのクライアントが若干関係する信州そばは今のところ登録されていないようです。松阪牛のようにいずれは統一されるとは思います。
2007年05月14日 14:43